アパレルビジネスにおける実践的なAI活用3パターンと生成AIの活用術とは
PLMとAIを連動させて起こることとは
産業界は、製品の開発・設計・製造といったライフサイクル全体の情報をITで一元管理し、収益を最大化していくシステムであるPLMが大はやりで、失敗しても失敗してもこの技術に幻想を抱いている。
PLMは、商社やメーカー型アパレルが産業エコシステムをつくるため、マスターを共有し、エコシステム内でワンマスター化し、エコシステム全体を効率化するもので、決して、忙しい生産部の作業を効率化するためのツールではない。
したがってPLMを導入すると、むしろ入力作業がいままで以上に増え生産部の仕事は多くなることになる。結果、「こんなはずではなかった」と、PLMパッケージのカスタマイズをやたらと繰り返すことで、動かなくなってしまうことになるのだ。
これは、PLMベンダーが、仕事欲しさに「これはできる、あれもできる」と、クライアントのいうことをすべて聞こうとするためにおきるのだ。だから、私は、PLMを導入する場合、RPA (ロボティクスの技術)を使って、生産部の業務効率化を同時に行うように推奨している。生産部のシステム上の面倒なダブルインプットなどは、RPAで解決できることが多いからである。
話をAIに戻すと、RFIDの技術をサプライチェーンに使い、PLMと連動させて商品が完成するまでの素材・商品・付属などのトレーサビリティが可能となる。
3つ目のAI活用としては、これらにRFIDをつけ、サプライチェーンの上工程までIot化を行い、たまった商品のビッグデータをつかって、商品のライフサイクルを逆トレースするわけだ。これは、特にこれからのSDGSの時代のトレーサビリティや生産進捗管理の自動化に役立つ技術になるかもしれない。
生成AIは対個客と対ユーザとなる
次に、生成AIの活用だ。いわゆるチャットボットの活用が、アパレル業界のみならずあらゆる産業界で進んでいる。私も、幾度かこの技術を使っていろいろな体験をしたが、その進化は驚くべきものだ。例えば私自身のことを聞くと、アパレルコンサルの第一人者で、その斬新な切り口は高く評価されていると同時に、現場感がないという賛否両論の評価がある、などとでてきて驚いた。私の提言に現場感があるかないかは歴史が証明するものなのでこれ以上の言及は避ける。
だがこのChatGPTに代表される生成AIは効果的な無人接客が可能になる。具体的には、ウエブに組み込まれて解析したビッグデータと連係し、購買をしようと考えている個客に対して「この客は過去、このような購買行動をとったからこういう商品を買う確率が高い」というデータを分析、「この商品はどうでしょうか」と最適なレコメンドが可能だ。
生成AIの活用は、上記のような使い方がもっとも自然だろう。
また、社内の情報システムのヘルプデスクに生成AIを導入するのも効果的だろう。「このグループウエアのシステム活用が分からないので教えてほしい」などの問いかけに答えてくれるからだ。
これまでは、対人でこうした質問をする人が多かったが、コンピュータは人をバカにしたり見下したりしないため、難易度の高いシステム活用が可能になる。
さて、まとめよう。このようにAIをつかった業務改革は、活用①トレンド把握の客観化、活用②個客の買い回りデータのマーケティング応用、活用③サプライチェーンの見える化、にそれぞれ活用する時代がくると思う。また、生成AIは対顧客では無人接客、対社内ではヘルプデスクになるはずだ。
まだまだここまでのことをやろうというアパレル企業はファーストリテイリングぐらいしか思いつかないが、必ずデータがたまる場所にAIは分析ツールとして存在するという基本ルールを頭にいれていけば、その活用は無限大である。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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