#6 道内小売業の新陳代謝を進めたのは、しがらみにとらわれない消費者の合理的な行動だった
丸井今井と三越を足しても
今や大丸1店舗にかなわない
顧客流出で経営が悪化した丸井今井は09年に民事再生法の適用を申請し、三越伊勢丹ホールディングスの傘下に入りました。11年には丸井今井札幌本店と札幌三越の共同運営会社「札幌丸井三越」が誕生。かつてのライバル店同士が手を組んで対抗することになりましたが、その後も大丸の勢いは全く衰えません。昨年にはとうとう札幌丸井三越の売上高をも上回り、丸井今井と三越の2店を合わせても大丸1店に及ばないところまで差がついてしまいました。
この鮮やかな独り勝ちの背景として見逃すことができないのが、大丸のしたたかな戦略でした。札幌店出店当時の社長だった奥田務氏は、北海道で「無名企業」であることを逆手に取り、従来の百貨店の常識を覆す新しい店づくりに挑んだのです。
従業員数を店舗規模がほぼ同じ神戸店の半分の500人に抑え、うち300人をパート化。本社対応が可能な間接部門は圧縮し、利幅の薄い外商部門は持たず、レジ打ちの要員はすべて外部委託する…。徹底した「ローコスト型店舗」を築き上げました。
北海道では最後発ゆえ、開業当初は著名高級ブランドの出店が少なく、「弱点」と指摘されもしましたが、それも承知の上。人件費を切り詰め、少ない売上高でも利益を出せるから、もともと高額なブランド品に頼る必要がない。むしろ、おしゃれで値ごろ感のある品ぞろえが、経済状況の厳しい北海道の消費者の心をがっちりつかんでいったのです。
百貨店は、高額品を丁寧な接客で売るのを基本としてきた業態です。従業員数を大胆に減らし、高額ブランドに頼らない大丸札幌店は、デフレ時代の百貨店の方向性を示す革新的店舗でした。とはいえ、「老舗」としての立ち振る舞いが求められる関西だったら、いきなりこのような思い切った店づくりはできなかったでしょう。これは、大丸の知名度がなく先入観もない札幌だからこそ可能だった「実験」でした。
大丸にとって幸いだったのは、しがらみに囚われることなく、時代の流れを先取りした新しい店をきちんと評価できる消費者が北海道に存在したということです。
開業翌年の04年から昨年までの15年間で、大丸札幌店の売上高が前年を下回った年は2回しかありません。構造不況業種と呼ばれる百貨店としては珍しい「右肩上がりのグラフ」は、大丸の実験精神と道民消費者の合理性による「合作」と言えるでしょう。
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