コロナで沈む百貨店業界の中で、伊勢丹新宿店が過去最高売上高を更新へ……その要因は?

棚橋 慶次
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キーワードは「店頭と外商の連携」

 「個客」とつながるCRM戦略の具現化に向け、伊勢丹新宿本店では、店頭と外商部門の連携強化を推進する。

 カスタマープログラムの第1ステップでは、自社カード「MIカード」への加入を薦め、その次のステップとして年間利用金額で顧客を層別し、年間利用金額100万円以上の「ゴールド顧客」に対してはカテゴリースペシャリストが買い回りを促進し、年間利用金額300万円以上の「プラチナ顧客」へのランクアップを促す。

 プラチナ顧客にランクアップした顧客は、店頭部門から外商部門にトスアップされ、外商部門の担当が、顧客とのワン・トゥ・ワン(1対1)の関係性の構築を推進する。具体的には、100年近い歴史を誇る招待制の催事イベント「丹青会」への招待や専用ラウンジ提供、係員がお客の代わりにクルマの入出庫を行う「バレーパーキング」の提供などにより、顧客の満足心をくすぐるさまざまなサービスを提供する。

 こうした取り組みによりLTV(顧客生涯価値)を最大化し、生涯“個”客化するという戦略が軌道に乗り始めているのが、伊勢丹新宿本店の原動力になっているのだ。

 百貨店業界はコロナ禍によってまさに“どん底”に落ちたように見えるが、実はずっと長い坂を下り続けている。日本百貨店協会の全国百貨店売上高によれば、百貨店売上は2008年度には7兆9000億円あったものの顕著な減少傾向が続き、17年度に6兆9000億円、そして21年度は4兆4182億円にまで縮んでしまった。

 富裕層需要やインバウンドで潤っていたのは大都市圏のターミナル駅近くの店舗や中核地方都市の店舗だけで、郊外・地方店の多くは慢性的な売上ダウンに苦しんでいる。その結果国内百貨店の数も2008年度の280店から2021年度には189店まで減ってしまった。

 かつて好調だった店舗も、決して楽ではない。インバウンドによる高額品需要は2019年には陰りを見せていたし、コロナ直前の2019年10月以降は消費増税もあって売上は落ち込み気味だった。コロナ禍が収まったとしても、バラ色の未来が待っているわけではない。

 郊外・地方にせよ都市圏にせよ、今後百貨店が生き残っていくためには、独自の戦略構築と差別化された施策展開が求められる。こうした意味で、伊勢丹新宿本店の取り組みは業界にとっても試金石となることだろう。

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