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日本での販売は序章 アダストリアが担うフォーエバー21の真の戦略とは

2019年9月にチャプター11(連邦破産法11条)の適用申請し、日本では19年10月末日本から撤退していたフォーエバー21が、アダストリアの支援を受けて日本に再上陸すると発表された。新生フォーエバー21は、来るべきSDGsに対応した新しいブランドとして、自社ECサイト「ドットエスティ」で販売し店舗販売も拡大してゆき、28年度に売上100億円を狙うという。アダストリアがフォーエバー21の日本での展開を担うとしてアダストリア株も2%上昇した。しかし、私はこの報道に懐疑的だ。アダストリアの戦略を深く分析すれば、その全体像が見えてくる。本稿はあくまで私が分析した、一つの視点であることを最初に断っておきたい。

メディアのフォーエバー21破綻の原因は誤り

 フォーエバー21といえば、「ファストファッション」の権化のような企業で、日本に登場した時は、「1万円で上から下まで、ついでに鞄も」というキャッチコピーだった。しかし、多くのメディアの報道によれば、「世界的なSDGsの隆盛により、時代の変化に勝てず破綻した」という論調がほとんどだ。しかし、こんな「ばっくりしたマクロ的変化」で、一つの企業が破綻に追い込まれるはずがない。

 もし、世界のSDGsの隆盛というマクロ的変化が一企業を破綻に追い込むのなら、なぜ、中国でスーパーファストファッションともいえるシーインが2兆円を超えるほど成長するのか説明してもらいたいものだ。誤った報道の分析は、過去幾度も指摘したが、消費者はSGDsへの理解は拡大するものの、現実の消費者のお財布事情が全く分かっていない。今、消費者は服に金をかける余裕もなく、限られた可処分所得の中で「安い」と「ファッショナブル」の2つで購買をしており、再生ポリエステルを使っているから、という理由で環境コストを払う消費者などごく一部であることは様々な統計から明らかになっている。

 実は、私は、破綻当時フォーエバー21で働いていた幹部クラスの人間から破綻劇の裏取りをした。詳しくは書けないが、破綻の理由は一般的経営の失策がもたらした資金繰りの悪化であり、調子の良いアパレルが「調子」にのりすぎ破綻する見慣れたケースだ。

 ファッションを競争力のある価格で販売するためには、大きなビジネスモデルの変化などの背景理由がある。例えば、長い流通を短縮化し「世界標準の」D2Cを後述する5つの機能を獲得し、高い「縫製回転率」(在庫回転率ではない)によって、高い消化率を維持して原価の歩留まりを抑える。そして店舗をショールーム化して「30店舗の法則」によって、ライブコマースとのクロスプレイでEC率を高めるなど、私の新書『知らなきゃ行けないアパレルの話」で紹介したソリューションを合理的に採用して行くことだ。
 実際、「オワコンだ」と断じられている「ギャルブランド」でも、バロックジャパンリミテッドはアジアで調子が良い一方、マークスタイラーは忘れかけていたほどになっている。これも、エリアとチャネルによるポートフォリオ戦略による戦略差が原因で、ここの分析もすでに終わっている。「ギャルブランドがオワコン」で、企業が破綻するなら、なぜバロックジャパンリミテッドはいまだに存在するのか説明してもらいたい。

フォーエバー21が苦戦した理由

フォーエバー21はチャプターイレブンを申請、その後ABGの元で再スタートを切っている(写真は2012年、zodebala/istock )

 私は、そもそも、ファストファッション悪者説に異を唱える立場だ。なぜなら、ファストファッションを批判する人達に、それでは、ファストファッションの定義をいってみよ、と問うてもバラバラの意見がでてきて、彼ら彼女たちはなんとなく、使い捨てのイメージからゴミをだし環境破壊をしている、という安直な発想で「イメージ」で話していることが分かる。

 それでは、安くてファッショナブルな商品が楽しめるg.u.(ジーユー)は、ファストファッションなのかといえば答えに詰まるし、今、日本はアジアでも長期に経済が停滞し国が貧しくなっている唯一の先進国で、そもそも中価格帯などという服が、世界的には高価格で日本人の多くが手も出せないということも分かっていない。つまり、分析がデタラメなのだ。
 実際に、多くの若者と話してお買い物に付き合えぱよい。将来に希望が持てない若者達は、メルカリで古着を買ったりシーインで工場直販の激安ファッションを買ったり、工夫をしてファッションを楽しんでいる。
 こうした現実を評価している世代は、ほとんどがバブル世代で、「Z世代は環境意識が高い」を、「だから買う」(購買に至る行動を取る人は5%もない)と自分都合な解釈でお茶を濁している。真にSDGsを実現するなら、流通を半減させる政策をだすべきだ。具体的には、余剰在庫に「在庫税」をかけることで、市中に眠る100億枚ともいわれる隠し在庫を世に出して、残り物で美味しい料理をするがごとく、余剰在庫の換金率を高める努力を企業にさせるべきだ。

 さて今回の、フォーエバー21再上陸には、いくつかのカラクリがある。921日、22日の日経新聞の報道からそれを読み解いてみよう。
 まず、新生フォーエバー21は、SDGsに配慮し、80%MDは、アダストリアのサプライチェーンで生産され、アダストリアの企画でデザインされ、価格はg.u.はおろか、ユニクロよりも高額だという。さらに、型数は1/10に絞られ、リアル店舗も従来の迫力のあるかつての3000㎡の大型店舗から、これも1/10になる

 つまり、名前はフォーエバー21だが、売られている商品はアダストリアの衣料品とコスパもデザインも変わらないことになる。私も、このニュースが報じられたとき、アダストリアはZ世代を囲い込むシーイン対策だと思った。だが、ユニクロより高価ということになると、高価格に合理性を与える理由が、市場の5%未満に過ぎない「環境配慮コスト」だとすれば、なおさらかつてのフォーエバー21のファンは離れて行くことになると思う。
 さらに、リプロ(リプロダクションの略で、本国にデザイン使用料を払って他国で生産すること)マスターライセンスは、伊藤忠商事だ。したがって、新生フォーエバー21には、伊藤忠商事にライセンス料を払わねばならなず、当然、販売計画を下回ったときのペナルティ条項なども初期的にはかかる。つまり、世界標準のD2Cのような「破壊的ビジネスモデルへの転換」がない、ライセンス料を払う単なるリプロに過ぎないのだ。単なるリプロはこの10年で、ファーストリテイリングやTSI holdings、三陽商会など多くの企業がトライするも、ラルフローレンやバーバリーなどごく僅かな例を除いて成功していない。

 では、アダストリアの真の狙いはどこにあるのか?

 

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新生フォーエバー21は、昔の「フォーエバー21」ではない

大型店主義だったフォーエバー21だが、日本での展開は1/10程度のサイズになり、郊外型ショッピングセンターへの出店となる(kokkai/istock)

 その前に、過去の外資系ファッションの栄枯盛衰の一例とSDGsファッションの矛盾について整理しておきたい。
 アバクロンビー&フィッチが日本に上陸したとき、芸能人に先行販売しメディアで披露、「じらし作戦」で、我々一般消費者は今か今かと待ち望んでいた。当初、斬新なVMDと上半身裸でイケメンが踊るパフォーマンス、100m先まで匂う店内の独特の香りに斬新さを感じ、銀座のフラッグシップショップ立上げ当初は行列ができたほどだった。 
 しかし、今は見る影もなく、おそらく、誰もがその存在も忘れているほどになっている。いくつかの原因があると思われるが、一つは誰もが驚いた高価格にある。世界標準の価格をひっさげ、多くの外資SPAが日本に上陸してきたとき、あの高価格(日本市場では中価格帯)は、日本人にソッポを向かれた。

 人が欲している2倍の量の商品を投下し、これは土に帰ります、海に帰ります、といって過剰生産に合理性を持たせるSDGsが自己矛盾を孕んでいることは、ちょっと考えればすぐに分かるのに、だれもこのように大きな視点で物事を見ていない。私は、いつも現場にはいるたびに、メディアや学者の報道と実際の現場の温度差を感じている。

 近所にラーメン屋ができれば、必ず最初の1-2週間は列ができるのだが、結局は味が期待値を満たしていなければ半年で閑古鳥が鳴く。アダストリアのフォーエバー21も、初期的には「昔のフォーエバー21」に期待する層が列をなすだろうと思う。しかし、フォーエバー21がもっているイメージ、つまり、「アパレルのドンキホーテ」と呼ばれる宝探しの楽しさや、かご一杯にいれても5000円を超えない昔のフォーエバー21はそこにはいない。そこに環境コストが入り、名前だけはフォーエバー21だが、そこにはいわゆるアダストリアらしいアパレル商品が並んでいるということになれば、昔の顧客は離れて行くだろうと思う。

 しかし、そんなことはアダストリアは分析済みで、その上で、重大な戦略を描いているのだと私は考えている。

 

 

 

 

 

 

アダストリアの真の戦略とはTokyo showroom city戦略

 私は、彼らの真意は報道されていないところにある、と考えている。それは、私が再三提言している「Tokyo showroom city戦略」だ。つまり、フォーエバー21が真の破壊力を発揮するのは、中国、東南アジアでの販売による圧倒的勝利なのだ。アダストリアの3カ年計画をみれば、凡百のアパレルでもできる程度のことで終わるはずがないのは明らかだ。

 21日の日経新聞では、このように報じられている。

 ABG社のアジア・太平洋地域の事業開発担当を務めるバイス・プレジデントのケビン・サルター氏は「日本はかつてフォーエバー21にとっての主要市場で、新たなブランドのイメージにとっても非常に重要だ」と話す。アダストリアは中国や東南アジアでの展開も見据える。

 *ABG社とはフォーエバー21を傘下に持つアメリカのライセンシングカンパニーである

 人口減少と可処分所得の低下、さしたる経済政策も見えない衰退する日本で戦うことに意味はもはや見いだせない。しかし、ブランドイメージを上げるためには欠かせない国と考えれば、売らない国としては十分「昔の名前」が通用する。

 アジアに進出するときは、シーインのように破壊的ビジネスモデルの転換がなければ、あのコスパには対抗できない。日本国内に止まり、潰し合いをしている2万社のアパレル企業を横目に、アダストリアは、国際基準の「破壊的D2C」を実現するための5つの要素、

  1. ブランド
  2. ライブコマース、
  3. クーリエによる子肺物流
  4. 在庫を極小化するライブコマース
  5. ビッグデータアナリシス

 の中の、もっとも獲得するのが難しい「1.ブランド」を手に入れたと考えれば合点が行く。
 つまり、アジアでも抜群の知名度を持つ「フォーエバー21」という名前を手に入れれば、その他の4つの機能は、すべてアダストリアは持っている
わけだ。したがって、ライブコマースもECにおけるCPA(顧客獲得コスト)も低価格で進めることが可能になるわけだ。ましてや、日本基準の品質でSDGs対応による先進性もある。

 投資の世界には、「What to bet ?」という言葉があり、何に投資をするのかという投資対象を絞り込むことができれば成功確率は大きく上がる。アダストリアは、日本では「EC販売」と20店舗程度の店舗を5年もかけて出店するという。いくら何でも、この程度の販売戦略で、ビッグネームである「フォーエバー21」を終わらせるはずがない。

 これは、単なる序章に過ぎない。アダストリアの「アジアを見据える」というのは、まさに私が提唱している「Tokyo showroom city戦略」であり、彼らが最も手に入れたかったのは、アジアで通用する「ビッグネーム」なのだ。日本での販売はその序章であると考えればアダストリアの戦略の全体像が見えてくる。

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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