日本での販売は序章 アダストリアが担うフォーエバー21の真の戦略とは

河合 拓
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アダストリアの真の戦略とはTokyo showroom city戦略

 私は、彼らの真意は報道されていないところにある、と考えている。それは、私が再三提言している「Tokyo showroom city戦略」だ。つまり、フォーエバー21が真の破壊力を発揮するのは、中国、東南アジアでの販売による圧倒的勝利なのだ。アダストリアの3カ年計画をみれば、凡百のアパレルでもできる程度のことで終わるはずがないのは明らかだ。

 21日の日経新聞では、このように報じられている。

 ABG社のアジア・太平洋地域の事業開発担当を務めるバイス・プレジデントのケビン・サルター氏は「日本はかつてフォーエバー21にとっての主要市場で、新たなブランドのイメージにとっても非常に重要だ」と話す。アダストリアは中国や東南アジアでの展開も見据える。

 *ABG社とはフォーエバー21を傘下に持つアメリカのライセンシングカンパニーである

 人口減少と可処分所得の低下、さしたる経済政策も見えない衰退する日本で戦うことに意味はもはや見いだせない。しかし、ブランドイメージを上げるためには欠かせない国と考えれば、売らない国としては十分「昔の名前」が通用する。

 アジアに進出するときは、シーインのように破壊的ビジネスモデルの転換がなければ、あのコスパには対抗できない。日本国内に止まり、潰し合いをしている2万社のアパレル企業を横目に、アダストリアは、国際基準の「破壊的D2C」を実現するための5つの要素、

  1. ブランド
  2. ライブコマース、
  3. クーリエによる子肺物流
  4. 在庫を極小化するライブコマース
  5. ビッグデータアナリシス

 の中の、もっとも獲得するのが難しい「1.ブランド」を手に入れたと考えれば合点が行く。
 つまり、アジアでも抜群の知名度を持つ「フォーエバー21」という名前を手に入れれば、その他の4つの機能は、すべてアダストリアは持っている
わけだ。したがって、ライブコマースもECにおけるCPA(顧客獲得コスト)も低価格で進めることが可能になるわけだ。ましてや、日本基準の品質でSDGs対応による先進性もある。

 投資の世界には、「What to bet ?」という言葉があり、何に投資をするのかという投資対象を絞り込むことができれば成功確率は大きく上がる。アダストリアは、日本では「EC販売」と20店舗程度の店舗を5年もかけて出店するという。いくら何でも、この程度の販売戦略で、ビッグネームである「フォーエバー21」を終わらせるはずがない。

 これは、単なる序章に過ぎない。アダストリアの「アジアを見据える」というのは、まさに私が提唱している「Tokyo showroom city戦略」であり、彼らが最も手に入れたかったのは、アジアで通用する「ビッグネーム」なのだ。日本での販売はその序章であると考えればアダストリアの戦略の全体像が見えてくる。

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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