国際会議ライブ中継!世界は日本と中国のアパレルビジネスをこう見ている

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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“チート”なシーインを生み出したのは、世界中のアパレル

司会:シーインに関しては、:1)効率的で集中したサプライチェーン。2)彼らの高度なアルゴリズムと強力なソーシャルメディアの使用。3)中国から直接出荷することによる税制上の利点。の3つが特徴的だと思っており、これらについて議論したいと思います。まず、サプライチェーンに関するあなたの見解を教えていただけますか?

河合 まず、アパレル企業のD2Cと呼ばれるビジネスモデルは、ファッション業界でますます拡大しています。シーインの本社はシンガポールにあり、中国広州の何千もの小さな縫製工場とクラウドでつながっています。彼らのサプライチェーンの独自性は、世界のアパレル企業が残した膨大な量の生地や商品サンプルなどを再利用することです。彼らは残り物を安く購入し、ブランド名を変更して、フェデラルエクスプレス(FedEx)などの航空宅配便サービスで消費者に直接出荷するわけです。同時に、シーインはシンガポールのビッグデータを活用し個別配送で出荷します。

そのようなファッション企業は世界でありません。例えば日本のSPA(製造小売)企業は、商品生産するため平均4枚のサンプルをつくり、工場に捨てます。一般的な業務フローを説明すると、ある程度の商品の塊を輸入税を支払うバルクコンテナで世界中の店舗に出荷。その後、店頭で消費者に販売するわけですね。

シーインのユニークなサプライチェーンは、残反、残品を活用していますから、FOBコストを一般の企業と比べて、約15〜30%削減できる可能性があります。この話を言うと「他の企業も真似すればよいではないか」と批判がでますが、それは無理です。ブランドには「顔」があり、何でも残ったもので代替できるというものではないのです。

司会者:シーインは、彼らがこれほど魅力的な価格設定ができる理由の1つは、生産における廃棄物を最小限に抑えられるからだと主張しています。アパレル業界では平均して、世界で生産された衣服の約30%が売れず破棄されます (これは本来P&Lのコスト増の要因になります)。シーインの廃棄物は、EC専業でデジタル・マーケティングと組み合わせ、世界中の何千もの店舗を稼働させ、顧客が何を買うかを「予測」する必要がないため、これよりもはるかに低いのです。これは、公正な競争といえますか?

河合 これは善悪の話ではありません。シーイン自体が限られた廃棄物で事業を行っているのは事実ですが、同時に、中国で生産している世界のすべてのアパレルプレーヤーの残り物を活用しています。シーインのビジネスモデルは、私たち先進国アパレルの「大量生産」に対する神の警告です。彼らが悪いとしたら、その責任は我々にあります。また、同時にシーインのような企業は、アパレル企業が破棄を前提に生産し続けるならば、成長し続けるでしょう。 ファッションビジネスにおける「破棄ゼロ」生産モデルは、デジタル技術のおかげで、今日は可能になりますが、私たちの貪欲さ、つまり、より企業を大きくし、利益を生み出したいという意欲があれば、彼らのような企業は決して消えることはありません。

会場からの質問①:シーインのもう一つの差別化要因は、彼らの高度な技術スキル (アルゴリズム、ソーシャルメディアの使用など)のようです。実際、彼らは自分自身をアパレル会社というよりはテクノロジー企業と定義しています。これについてどう思いますか? また、彼らの技術スキルを他のプレイヤーと比較しどのように評価しますか?

河合:ZARAやユニクロのように、グローバルチャンピオンに成長していく企業は、人間の感性という、曖昧で不確実性が高いもので成長している企業でないということを忘れてはなりません。シーインはもともと、ビッグデータ分析を使用し、中国で残っている多数の衣服やサンプルからベストセラー製品を探すデジタル・マーケティング会社でした。もちろん、スタートアップのフェーズでは、ファッションビジネスには感性は必要だと思います。 ですが、だからといって、感性だけで企業はスケールアップしません。彼らは確かに技術面で進歩し、それらをハイテク企業と呼ぶのは正しいと思います。

会場からの質問②:シーインの税制上の優遇措置について。彼らは、米国(そして部分的にヨーロッパ)の輸入税が、中国からの直接出荷により、避けられているようです。シーインは、このことについて、「私たち先進国は、この利益を過大評価し、これが競争力のある価格設定の理由の1つではない」と主張しています (あくまでも、廃棄物低レベルがコスト優位性の源泉であると主張しています)。あなたの意見は何ですか?

河合: 税金をくぐり抜ける影響は、バリューチェーン全体で見れば、決して影響が小さいとはいえません。たとえば、世界中の繊維製品の輸入は、国によって違いますが、平均すれば、CIF (コスト、保険、貨物)価格の約10%ぐらいです。 小売業者は、この価格を3倍にして消費者に販売します。シーインがこれらを経る必要がないとすると、シーインのコスト優位性は、  競合他社と比較し小売価格の上代の約30%ディスカウントとなります。

 

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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