第67回DNJスペシャルリポート日医会長が痛烈に批判。お手盛り医薬分業が国民から見放される日

2013/06/15 01:00
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日本医師会会長に当選した横倉義武氏の第一声に、薬業関係団体は仰天した。「医薬分業が患者、国民のためになったのか、よく考えないといけない」─。温厚な人柄とされる横倉会長が、就任早々口にした批判はそのまま現在の分業を言い当てている。翌日、日医会長の発言を受けて、日本薬剤師会の児玉孝会長は「分業が患者や医療機関にどんなメリットがあるのか、推進してきた立場からきちっと検証しエビデンスを示したい」と応じた。2012年度の診療報酬改定で、日薬は自分たち薬剤師にとって都合のいい調剤報酬の組み直しに成功している。しかし、それら現状の身勝手な分業の仕組みが、日医どころか患者、国民から見放されることになる。

文=玉田慎二(医薬経済)

 

薬剤服用歴管理指導料再編で一時騒然

 

 日医の横倉会長は4月4日の就任会見で、2012年度に40兆円を突破する見通しの医療費に関して「薬の飲み残しだけでも8000億円あるといわれる。ムダな医療があるなら解消しないといけない」と指摘した後、「医薬分業で医療費がどれだけ伸びたのか検証しないと」と問題提起。そして、「もともと調剤は診療報酬のなかで10%もなかった。それが今、相当伸びている。本当に医薬分業が患者、国民のためになったのか、よく考えないといけない」と、分業に対する懐疑的な見解を示した。日医の会長が、就任早々に関係団体の“医療”を問題視するのは異例だ。

 

 厚生労働省の直近のデータによると、11年4~9月の上半期は、医療費全体の伸びが2.9%増だったのに対して、調剤は8.1%増と突出。医科入院が1.9%増、医科入院外が1.8%増と比較しても調剤の伸びは断トツだ。

 

 一方、12年度診療報酬改定は、全体が0.004%増と微増のなかで、医科は1.55%増、歯科1.70%増に比べ、調剤は0.46%増と低いプラス幅にとどまった。ただし、中身を精査すると、日医会長が噛み付きたくなるような内容が出てくる。

 

 今回の調剤報酬改定のポイントのひとつに、「薬剤服用歴管理指導料」の再編がある。薬歴に基づいて重複投与や相互作用、アレルギーなどを確認し、薬剤の副作用や服用に関して情報提供することで算定できるのが、これまでの「薬剤服用歴管理指導料」(30点)。これに、お薬手帳を使用した情報提供によって加算される「薬剤情報提供料」(15点)を統合して、新たに「薬剤服用歴管理指導料」(41点)と組み直したのが今改定だ。この新・薬歴管理指導料は、「残薬の確認」や「後発品に関する情報提供」「お薬手帳を通じた情報提供」の3点を、新規の算定要件として厚労省は加えた。

 

 昨年11月の中央社会保険医療協議会で厚労省の担当官は、東日本大震災でも、お薬手帳によって服薬の情報を医療スタッフ間で「共有」できたことを挙げ、手帳の「有用性が再確認された」と胸を張った。薬剤服用歴管理指導料と薬剤情報提供料を統合することで、「薬歴と一体的な情報提供、薬剤管理指導を行える」と、点数再編の意義を強調したのだ。

 

 ただ、従来の薬剤服用歴管理指導料を取得しているのは96%とほとんどの薬局が30点を得ているのに対して、お薬手帳の薬剤情報提供料を算定しているのは55%にとどまる。つまり、新要件であるお薬手帳を持っている患者は半分弱で、このままでは半数の薬局は新薬歴管理指導料41点を取れなくなる、という事態も想定されていた。

 

 ところが、診療報酬改定が決まった2月10日の記者会見で、日薬は余裕綽々(しゃくしゃく)だった。中医協委員で改定を担当した三浦洋嗣常務理事は、新要件によって、これまでの薬歴管理料30点を得ていた薬局の約半数が、まったく加算を得られなくなる可能性について、危機感はなかった。08年度に導入され、10年度廃止となった「後期高齢者薬剤服用歴管理指導料」(35点)では、患者がお薬手帳を忘れた場合、必要な情報を記載した「シール」を渡すことで例外的に算定が認められたことを挙げ、混乱は起きないと説明した。

 

 いや、それは手帳を忘れた患者であって、手帳を持たない患者はどうするのか、という記者からの問いに明確な回答なかった。しかし、この態度は、今振り返れば伏線だった。

 

 一方で、現場は混乱した。手帳を「忘れた」患者はともかく、そもそも「持っていない」45%にものぼる患者に対して、新たに手帳を受け取ってくれる患者がどれほどいるのか、心配になったわけだ。改定を目前に控えた2月、3月、調剤薬局の現場は騒然となっていた。

 

 それはそうだ。この時点では、手帳などの新要件をクリアしなければ約半数の薬局が41点を取得できず、30点からゼロ点に大幅引き下げになり、大損と考えられていた。

 

新・薬歴管理指導料 無条件で算定可能???

 

 厚労省保険局医療課の江原輝喜課長補佐は、3月7日に都内で講演し、調剤報酬改定に関して詳説する。新・薬歴管理指導料については、お薬手帳の意義を説明し尽くしたにもかかわらず、患者が手帳を断固拒否した場合には「これだけ説明しても断られた、と記録することがあり得る」と述べ、手帳に記載しなくても例外的に算定可能とする方向性を示唆したのだ。今後公表する「疑義解釈で示せるか検討したい」とも語った。要件では「お薬手帳を通じた情報提供」と規定しているにもかかわらず、患者が手帳の受け取りをかたくなに拒んだケースは、薬剤師が説明を尽くしたと「記録」だけすれば、手帳がなくても手帳を通じた情報提供に該当すると、意訳したのである。

 

 見解は、一斉に調剤薬局各社に駆け回り、安堵の声が上がったのは言うまでもない。しかしこれは、「拡大解釈」を超えた「曲解」だ。厚労省が中医協で、点数再編で示した哲学を自ら踏みにじっている。

 

 日薬幹部は解説する。「後期高齢者の薬歴管理料を導入したとき、手帳を本当に拒んだ人に対して薬局は算定していなかったか、といえばそんなことはない。それで『困った』という薬局はなかった」。つまり、お薬手帳を通じた情報提供という要件は、すでに形骸化している。

 

 さらに、幹部は続ける。「行政としては口が裂けても『要件を満たさなくてもいい』とは言えない。(算定について解説する)疑義解釈で、どこまで書けるかはわからないが、要は、みんな41点を取れる」。では、薬歴管理という技術料を算定できる“要件”とはいったい、なんなのだろう。

 

 処方箋1枚当たりの平均単価は約8300円。薬剤料を除いた技術料は約2100円程度で、そのうち410円の薬歴管理料は約2割を占める。薬剤師の収入の根幹を成す技術料が、こんな手法で患者から徴収されていることを国民が知ったらどう思うだろう。厚労省も日薬も国民を侮っていると、とんでもないしっぺ返しに遭う。

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