第44回 多様化する介護食 毎年2ケタ成長で拡大するマーケット食べる楽しみを意識し、メニューも多彩に

2012/05/22 11:00
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 厚生労働省の介護保険事業状況報告(暫定)によると、居宅(介護予防)サービスの受給者数(2011年12月分)は323万4550人で、増加の一途をたどっている。それに呼応し、食品メーカーなどが介護食市場に新たに参入したり、介護食事業に注力したりしており、介護食の市場も拡大。日本介護食品協議会が発表している、ユニバーサルデザインフードの2010年の実績は、生産量7012トン(前年対比119.3%)、生産金額82億9300万円(前年対比114.8%)と、いずれも伸びている。市販用だけの数字を見ても、生産量1306トン、生産金額15億900万円と、前年対比117~118%と成長軌道を描いている。

 

 これまで、ムースタイプの介護食など福祉施設の業務用をメーンに、介護食事業を展開してきたマルハニチロ食品(東京都江東区)は、今年3月から在宅向けの商品を本格的に展開する方針を打ち出した。

 

 新商品約50品目のうち、27品目が在宅向け。料理研究家で管理栄養士の村上祥子氏が監修した「今日のひと品シリーズ」は、天ぷらそばや醤油ラーメンなど、高齢者がこれまで親しみ、味わってきた“普通の料理”にこだわりながら、食感は、やわらかく仕上げている。冷凍タイプで、湯煎かレンジアップで手軽に調理できる。常温タイプでごはんがおいしく食べられるおかずを揃えた「やわらか食シリーズ〈常温〉」も投入した。

 

 同社の、メディケア営業部メディケア営業課課長・大和田耕司氏は、「老介護や、料理をしたことがない男性が、介護をすることになったときのサポートにもなっているようだ」と話し、初年度は在宅関連商材で、3億円を目標に掲げている。

 

 介護食は、まとめ買いをする傾向にあることから、小売店の店頭にチラシを置いて注文を募り、同社の物流を活用して個配を行う販売手法を導入。小売店にとっては、在庫を持つことなく、販売することができる利点がある。

 

 介護を受ける人にとって、食事は大きな楽しみの一つ。介護食品は栄養改善や食べる喜びを提供するものなので、選択肢が増えることはメリットだ。

 

 ユーザーのニーズをさらに深掘りした提案も。49種類ものメニューをラインアップするキユーピー(東京都渋谷区)の介護食「キユーピー やさしい献立」は、高齢者は、おかゆを主食としている人が多いが、ごはん用のおかずをのせたときに、水分が多いおかゆでは味を感じにくいという課題に着目。おかゆに染み込みにくい粘度や、おかゆとの味のバランスに配慮した「おかゆ用の具」を開発し、徐々にユーザーを増やしつつある。

 

 また、キユーピーは継続のしやすさを重視し、介護食を選ぶ際の目安となる区分の「区分1」「区分2」の20品を、10年8月と11年9月の2回にわたり、合計70円値下げ。1食当たり180円と、日常的に使いやすい価格にしたことで、11年度は物量で前年比141%に。

 

 介護をする側は、食事の準備、食事の介助、後片付けが1日3回、365日、休むことなく続く。介護食は、介護する側の負担を少しでも軽減することができ、上手に取り入れている人が増えていることも、市場を底上げしている。

 

 DgSや調剤薬局は、医薬品の説明や、食事の相談ができる専門性の高さから、介護食との親和性は高い。多彩になる介護食の特徴を把握し、一人ひとりに合った食事のサポートができるかが、顧客化のカギを握るだろう。

 

 既存の小売業のネット戦略も大きな影響を受けることは間違いない

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