第43回 医薬品ネット販売規制 東京高裁での2審はネット販売の権利を認め国敗訴

2012/05/22 10:00
Pocket

 東京高裁は4月26日、厚生労働省が改正薬事法で原則、第3類OTC薬までに限定したインターネット販売に対して、第1類、第2類の販売を認める判決を言い渡した。改正薬事法には、ネット販売規制の根拠となる「委任の規定」が見出せないと判断。ネット販売を禁止した省令は国民の権利を制限する規定で、国家行政組織法に違反するとし、厚労省の主張を退けた。ネット販売会社ケンコーコムなど原告は、第1審の東京地裁敗訴から一転、逆転勝利した。

 

 09年6月施行の改正薬事法は、インターネットなどを利用したOTC薬の「郵便等販売」について、安全性が担保され対面販売を「不要」と規定した第3類に限定した。これに対して、ケンコーコムなどネット販売関係者が反発。第1類、第2類を含めたOTC薬の郵便等販売を求め、争ってきた。

 

 第1審の東京地裁では、対面販売とネット販売による情報提供の優劣が主な争点となった。東京地裁はネット販売が対面販売に比べ、購入者の状態を的確に把握するのが困難と判定し、副作用を防止するには規制は「合法」と判決を下した。

 

 今回の第2審東京高裁は、改正薬事法議論の中では、ネット販売と対面との比較が行われているものの、営業の自由に対する規制を省令に委任する検討を認めることはできないと指摘。改正薬事法でネット販売の規制を省令に委任した根拠はないとし、省令は委任の趣旨を逸脱した「無効」な規定とした。ケンコーコムが主張していた営業の自由に対する違憲性には触れない形で、省令の違法性を判断したことになる。

 

 対面販売の原則に関しても、そもそも旧薬事法が電話注文を受けた郵便販売を許容している点を挙げ、ネット販売も「適法であると解されてきた」といった見方を示した。このため改正薬事法が、ネット販売を「原則的に排除すべきという趣旨で規定されたものと解することはできない」としている。

 

 ケンコーコムは「全面勝訴。我々としては負けたところは1つもない」と強調。「国は上告せずに早期にこの問題に対処して欲しい」と、ネット販売を速やかに再開できるよう求めた。一方、厚労省医薬食品局は、「国側一部敗訴の判決」「国の主張が一部認められず、厳しい判決」などとしたコメントを発表した。

 

 「全面勝訴」と「一部敗訴」、両者で見解が微妙に食い違っているところが今後のポイントだ。ケンコーコム側の要求は3点だった。(1)ネット販売する権利(地位)の確認、(2)省令の施行規則にある規定の無効確認、(3)規定の取消し。まず、1審の東京地裁は、(1)を棄却し、(2)と(3)を却下した。棄却は審理の結果、提訴に理由がないとして請求を退けることを意味し、却下は申し立て自体が不適法と理由の有無を判断しないで「門前払い」すること。

 

 今回、第2審の東京高裁は、(1)を認め、(2)と(3)を棄却した。(2)と(3)に関しては、行政庁の公権力の行使に不服を申し立てる「抗告訴訟」になるが、規制がケンコーコムら「限られた特定の者」でなく広くネット販売業者に及ぶため、抗告訴訟の対象外と判断した。つまり、厚労省としては3つの訴えのうち「認められたのは1つだけ」という外形的事実を捉え「一部敗訴」と強調した訳だ。

 

 対してケンコーコム側は、保険を掛ける意味で「3つのうち、どれでも1つ認めてもらえればいい」という戦略だった。そして、(1)の販売権利確認を勝ち取った。判決では、薬事法が「一律に第1類、第2類のネット販売禁止を許容して、これを省令に委任したものと認めることはできない」とし、既存小売業の戦略にも大きな影響を与えることになる。
 

© 2024 by Diamond Retail Media

興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

ジャンル
業態