値上げしたのにアパレル業界が利益に結び付かない2つの理由
一息付いたかと思われた円安がぶり返して食品を中心に値上げラッシュが再燃する中、チェーンストアの衣料品はコスト転嫁のインフレ政策(値上げ)に走って良いものだろうか。衣料消費の実情を正視すればインフレ政策の無理は自明で、チェーンストア衣料品は生活防衛に身構える消費者に応える必要がある。
食品のインフレにおされ、回復鈍い衣料消費
今春に30年ぶりという大幅賃上げがあってもインフレに相殺され、実質賃金がプラスとなったのはボーナス月の6月、7月だけで、8月は再びマイナスに転じている。5月以降は大幅賃上げ効果で消費は上向いているが、いったんは円高に転じても直近では再び円安が進行しており、帝国データバンクの調査によれば11月の食品値上げ品目数は11ヶ月ぶりに前年を超えて平均値上げ率は16%におよび、25年も値上げラッシュが継続すると報じている。
2024年1〜8月累計の名目家計消費支出(二人以上の世帯)は19年を0.9%超えるまで回復しているが、19年から10.9%も肥大して家計支出の29.6%(エンゲル係数、19年は25.7%だった)に達した「食品」に圧されて「衣服及び履物支出」は19年比88.5%にとどまり、家計支出に占めるシェアも3.36%(アパレル2.00%)と19年から0.32ポイント(以下pt、アパレルは0.21pt)
すっかり貧しくなってG7最貧国に転落し、社会負担とインフレで手取りが目減りする日本国民が、「飢えを癒すためにお洒落を犠牲にしている」ことが統計からも見て取れる。リーマンショック前までは通勤電車のOLの半分ぐらいは何らかのラグジュアリーブランドのバッグを持っていたのに今や滅多に見ることがなくなり、これ見よがしに持っているのは外国人観光客ばかりになったが、なんだかバブル期のパリやロンドンで見た風景の裏返しに見える(現地の方々がシックに装う中で日本人観光客だけがブランドもので着飾っていた)。
サンプルが8000世帯ほどと限られマーケット全体とは多少の誤差を否めない家計調査だが、インバウンドの押し上げもある全国百貨店「衣料品売上」さえ1〜8月累計で19年比89.8%と9掛けに届かず、商業動態統計「衣服・身の回り品小売業売上」に至っては同19年比76.7%と8掛けにも届かないから、衣料消費の回復が極めて鈍いのは間違いない。食品の値上げが続く限り衣料消費の低迷も続くのではないか。
値上げが利益に繋がっていない衣料品業界
食品メーカーや食品卸売業の決算を見ると値上げがほぼストレートに売上はもちろん利益にも反映され、一部には不調企業もあるもののスーパーマーケットでも同様の傾向が見られるが、衣料品業界では「値上げが業績に繋がっていない」ケースが大半だ。
産地が空洞化した我が国の衣料品供給は輸入品が数量ベースで98.4%(23年)を占め、国産品の供給数量シェアは1.6%と限られるから、為替レートが調達コストをストレートに左右する。
23年の供給数量は34億2533万点(下着類を含む)と22年から4.9%、19年からは14.0%も減少、うち輸入品数量は33億7052万点と22年から4.7%、19年からは10.5%減少したが、円安が進行して金額ベースでは22年から0.9%、19年からは8.7%増えている。23年の輸入単価は881.1円と22年から5.9%、19年からは21.5%も上昇しているが、この間に円の対ドルレートは29.1%も下がっているから、輸入単価は生産地シフトなどの業界努力によって多少なりとも抑制されている。
家計調査のアパレル(洋服+シャツ・セーター)の平均支出単価を「購入単価」、小売市場規模(繊研新聞調査値)を供給点数で割ったものを「供給単価」と仮定し、「購入単価」を「供給単価」で割った指数の推移を見れば業界の歩留り率(供給売価に対する実現売価)の変化が推察できる。「購入単価」はアパレルのみの平均、「供給単価」は下着類を含む平均なので後者の方が低くなり指数そのものは意味をなさないが、指数の推移から乖離の趨勢を掴むことはできる。
23年の供給単価は2739円と19年から12.8%も
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