『百貨店の進化』
伊藤元重(日本経済新聞出版社/1800円〈本体価格〉)
変化の激しい小売業のなかで、100年以上にわたって中心的な役割を果たしてきた百貨店業界。アパレル企業と二人三脚でやってきた「消化仕入れ(陳列する商品の所有権を卸売業者やメーカーに残しておき、小売業者で売上が計上されたと同時に、仕入れが計上されるという取引形態)頼み」という高度経済成長期のビジネスモデルからなかなか抜け出せず、バブル崩壊後、長年不振に苦しんできた。
これまでの小売業界の変化をマクロの視点で分析しつつ、これからの百貨店業界がどうなるのかを予測しているのが本書だ。百貨店業界を取り巻く競争環境については、人口構成や「都市-地方」の関係性の変化、コンビニエンスストアやドラッグストアなど他業態の台頭、米アマゾン(Amazon.com)を始めとするECによる攻勢などについて、データに基づいて分析している。
そのなかでとくに、百貨店によるデジタル活用の重要性を説いている。本書が注目しているのが、「お帳場」と呼ばれる百貨店独特のサービスだ。富裕層や優良顧客に対して、特別なサービスを提供するもので、それが占める売上もかなり大きい。
このお帳場サービスが、一人ひとりの消費者にビジネスを合わせていく「C2B(コンシューマー・トゥ・ビジネス)」のビジネスモデルとなっており、デジタル活用によりさらに発展する可能性を秘めていると本書は指摘する。
また、スマートフォンの普及により「すべての場所がショーウィンドウ化する」ことを挙げている。スマホのカメラで商品をスキャンするとそれに似た商品が提案され、購入できるような仕組みをアマゾンや中国のアリババは生み出した。百貨店もそういった仕組みを活用し、「最も楽しいショーウィンドウになる」べきだという。米国の一部百貨店では実際にそのような仕組みを導入している例もあるそうだ。
これまで百貨店は消費者ニーズ、市場環境の変化に対応してきたからこそ、100年以上生き残ってきた。これからは、デジタル活用を軸にビジネスモデルを変革する時代となるだろう。
(『ダイヤモンド・チェーンストア』2019年3月1日号掲載)