焦点:「インドア農業」コロナ禍で脚光、投資・参入が加速
種子開発も屋内に軸足
世界最大の種子開発企業の1つであるバイエルは、垂直農業拡大のために植物テクノロジーを提供したいと考えている。8月、バイエルはシンガポールの政府系投資会社テマセクと共にシードマネー3000万ドルを拠出し、カリフォルニア州に本社を置く企業アンフォールドを設立した。
アンフォールドのジョン・パーセルCEOによれば、同社は、屋内栽培用のレタス、トマト、ピーマン、ホウレンソウ、キュウリの種子設計を主力事業とする初の企業であるという。そこで用いられるのが、バイエルが提供するジャームプラズム、すなわち植物遺伝資源である。
アンフォールドは、既存の農場、シンガポール及び英国の新興農場をターゲットとする販売事業を、2022年初頭に開始したいと希望している。
温室農業も、露地栽培よりも高い収量を売り物に拡大しつつある。
ケンタッキー州モアヘッドで60エーカーの温室を使ってトマトを栽培しているアップハーベストは、昨年、同州内でさらに2カ所の温室を着工した。同社は2025年までに栽培施設を12カ所に増やしたいとしている。
ジョナサン・ウェッブCEOによれば、同社の温室は、自動車ならば1日で米国の総人口の70%に製品を届けられる場所に立地しており、南西部のトマト生産者に比べて輸送面で優位にあるという。
「カリフォルニア州とメキシコからトマト生産事業を奪って、こちらに持ってくるのが狙いだ」とウェッブCEOは言う。
予想されるグローバル人口の増大を考えれば、食糧生産を大幅に増やす必要があるが、頻発する災害と天候不順を考えれば、屋外の農業で対応するのは困難だ、とウェッブCEOは言う。
ニューヨークに本社を置くブライトファームズは4カ所の温室を運営しているが、スティーブ・プラットCEOによれば、いずれも米国の主要都市の近郊に配置しているという。クローガーやウォルマートなどを顧客とするブライトファームズは、今年、ノースカロライナ州とマサチューセッツ州に、同社として最大規模になる農場を開設する計画だ。
米国における葉物野菜のうち屋内生産が占める比率は、現在の10%未満から、10年以内に50%にまで上昇するというのがプラットCEOの予想だ。
「この方向への大きなうねりがある。現在のシステムは、国中の人々に供給できる体制になっていない」と同CEOは言う。
「荒唐無稽」との批判も
だが、NPOランド研究所のスタン・コックス研究員は垂直農場に懐疑的だ。垂直農場は、照明や温度管理に要する電力コストの増大分を食料品店への請求に上乗せして相殺している、とコックス氏は指摘する。
「そもそも私たちが農業をやっている理由は、毎日地上に降り注ぐ太陽の恵みをいただく、ということなのだ」とコックス氏は言う。「太陽光は無料で得られる」
ユタ州立大学のブルース・バグビー教授(環境植物生理学)は、NASAのために宇宙農業を研究してきた。だが、地球上での大量の電力を投じる垂直農法は途方もない考えだと同教授は考えている。
「ベンチャーキャピタルはありとあらゆる荒唐無稽な話に投資しているが、垂直農法でまた1つその実例が増える」
バグビー教授は、従来の方式で生産された作物をカリフォルニア州から全米にトラック輸送する燃料を考慮に入れたとしても、垂直農場は屋外の農場と比較して、作物生産に要するエネルギーが10倍にも達すると試算している。
ニュージャージー州の製鉄所跡地で世界最大級の垂直農場を運営するエアロファームは、屋外での農業とエネルギー使用量を単純に比較することはできないとしている。デビッド・ローゼンバーグCEOは、長距離輸送を必要とする農作物は廃棄率も高くなり、また屋外の農場の多くでは灌漑用水や農薬を使っていると指摘する。
垂直農場は、この他にも環境面でのメリットをうたっている。
エレベートは、作物に自動給水するために閉鎖循環式のシステムを用いており、作物が排出する水蒸気を回収し、再び給水に使っている。こうしたシステムにより、屋外でロメインレタスを栽培する場合に比べ、必要とする水の量は2%で済む、とジャダブジCEOは語る。また、同社では農薬をいっさい使っていない。
「私たちは問題を解決しつつあると思っている」とジャブダジCEOは言う。