奥谷孝司氏が語る小売業がDXを成功させる方法と、いま実現すべき「カスタマーサクセス」とは
国内の小売各社がDX(デジタル・トランスフォーメーション)に取り組み出して数年が経過した。さまざまなテクノロジーの登場もあって、小売業のデジタル活用は一定の成果が見られるものの、文字通り、自社のビジネスを「トランスフォーメーション」できた企業はまだ少ない。小売業はどうすれば本当の意味でDXを実現できるのか。そのためには何が必要なのか。顧客時間共同CEO取締役の奥谷孝司氏に解説してもらった。
「トランスフォーメーション」を実現するためには
最近のDXの取り組みは、トップダウンによるものが増えているように思う。その結果、各社のコミット(責任を持って推進すること)は進んだものの、大半がDXではなく、「デジタライゼーション」に終始している印象だ。
アプリやECをただつくったというだけではデジタライゼーションであり、「トランスフォーメーション(変革)」をしていくには、働く側のメンタリティから全社を変え、顧客中心主義をデジタル活用を行いながら実践していかなければならない。自社のビジネスをトランスフォーメーションしていくために、既存ビジネスの延長線上にあるビジネスである「量の経営」と、デジタルを活用したお客との直接的つながりを志向するビジネス「質の経営」の両立を私はよく提唱している。とくに、「質の経営」への挑戦ができて初めてDXが実現したと言える。
海外に目を向けると、米小売におけるデジタル活用は今や「オーバーテクノロジー」のような状態で、各社とも投資を“やりきった”段階にある。アマゾン(Amazon.com)もレジレス店舗「Amazon Go(アマゾン・ゴー)」「Amazon fresh(アマゾンフレッシュ)」に巨額の投資をしたのちに、ホールフーズ(Whole Foods Market)のような買物体験の価値を自社の店舗に導入する方向に向かっていった。
つまり、米国の先進企業はデジタルを突き詰めた結果、「ヒューマンタッチテクノロジー(人間味のあるテクノロジー)」の重要性に気づいたのである。今後の米小売におけるDXは、“ほどよいテクノロジー”になっていくとみている。その中では、各社にとっての適正なデジタライゼーションとは何かを考える必要が出てきている。そのためには、「顧客体験」、そして「カスタマーサクセス」について考えなければならない。
カスタマーサクセスを実現するためには、自社が提供する顧客体験の中で、足りないところをデジタルでどうカバーするかという発想が必要だ。
たとえばある食品スーパーが、スマートフォンのビデオ通話を活用した対話型、リアルタイムショッピングサービスを始めたとする。通話をしながらお客と一緒に生鮮食品を選ぶことは顧客体験の向上につながるであろう。店舗の人件費がマイナス要素かもしれないが、巨額のシステム投資をするネットスーパーよりも効率的ではないだろうか。カスタマーサクセスの実現にハイテックが必要とは限らない。身近にあるテクノロジーで
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