焦点:トヨタ、特許開放呼び水に新事業 電動車コア技術の標準狙う

ロイター
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4月15日、トヨタ自動車は、ハイブリッド車(HV)で培った電動化技術の特許の無償開放を呼び水に、HVシステム外販と技術支援に乗り出した。写真はトヨタ自動車のロゴとC-HRハイブリッド。昨年10月にパリオートショーで撮影(2019年 ロイター/Benoit Tessier)

[東京 15日 ロイター] – トヨタ自動車はハイブリッド車(HV)で培った電動化技術の特許の無償開放を呼び水に、HVシステム外販と技術支援に乗り出した。HVの基幹部品・技術は、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)にも活用が可能。量産によるコスト削減や投資抑制、電動化技術の「デファクトスタンダード(事実上の標準)」を狙い収益向上を図る。

<「システムサプライヤー」として成長>

「トヨタは完成車の提供だけでなく、これから『HV、電動車のシステムサプライヤー』になろうというのが大きな狙い。特許そのものはそれほど大きな収入になるとは思っていない」――。寺師茂樹副社長は11日のロイターによる取材で特許無償開放の真意を強調した。

トヨタは特許開放を機にHVシステムの需要が高まるとみており、量産効果でコストをさらに半減でき、日米中で検討しているHVシステムの生産能力増強などの「投資もかなり抑えられる」(寺師副社長)と期待する。

ある自動車メーカー幹部は「トヨタの技術は、機構が複雑で高度な電子制御が必要。特許を無償提供してもらったところで、どの社も自前で開発する経営資源や量産ノウハウ、時間がないだろう。トヨタから部品やシステムを買ったほうが早い」と話す。

SBI証券・シニアアナリストの遠藤功治氏は、何から何まですべて開発・生産する完成車よりも「システムサプライヤーのほうが利益率は高い」と指摘。1997年の世界初の量産HV「プリウス」発売以来、20年以上かけて磨いてきた電動車の「心臓」部品を他社へ提供するという戦略は「頭が良い」と評価する。

特に電動車の場合、その種類と需要動向は各国の政策や環境規制に振り回される。例えば、規制により燃費改善が急務な中国の自動車メーカーのHVへの関心は高く、中国メーカーの電動車にトヨタのシステムを広く普及させられれば、中国政府の施策にも一定の「影響力を持つことができるかもしれない」(遠藤氏)。

また、三菱UFJモルガン・スタンレー証券は、特許無償開放による仲間づくりによって国内外で部材調達面でのシナジーが見込まれるとし、HV関連部材のコストダウン効果は「中長期的に年間1000億円を上回る可能性がある」と試算している。

<当面はHV、EV・FCVも視野に仲間づくり>

自動車メーカー各社は2030年代に向けた世界的な燃費規制強化への対応に迫られている。特に日産自動車や海外勢はこれまで規制に対応できる環境車の本命としてEVに力を入れてきており、トヨタの優位性を崩しにくいHVには消極的だった。

しかし、EVの本格的な普及には電池の性能やコスト、航続距離、インフラ整備など課題がまだ多い。顧客にEVを選んでもらえるかどうかも大きなハードルで、各社は各国規制の目標達成のために、つなぎの技術であってもHVを無視できなくなっている。

寺師副社長は特許開放を発表した3日の会見で、ここ数年で他社にも「電動化に向けての現実的な解は、HVだと十分理解され始めてきた」と話した。

世界で最も厳しい基準とされる欧州の規制は、30年に二酸化炭素(CO2)を今の規制値の半分に削減する目標となっている。寺師副社長は、目標達成には各社の販売台数の50%をEVなどのゼロエミッション車(走行時の排出ガスがゼロ)に置き換えなければならないが、「EVは電池のコストが高いので、EVの比率が高ければ高いほど、企業の収益にかなり大きな(マイナスの)インパクトを与える」とみており、HVで極力CO2を削減し、足りない部分をEVで置き換えるのが一番現実的だと考えている。

モーター、パワーコントロールユニット(PCU)、電池という3つのHVの基幹部品のうち、トヨタはモーターとPCUの関連特許を無償提供する。これらの部品はEVやFCVでも共通で使われるため、PCUなら「この10年間で10倍くらいの(市場)規模になるのは間違いない」(寺師副社長)。HVからの「仲間づくり」が将来に向けてもいっそう大事になる。

系列サプライヤーの幹部は「トヨタはEVで出遅れ、エコカーの本命として推してきたFCVの普及も想定通りに進んでいない。われわれも焦っている。特許開放で起死回生してほしい」と期待する。

トヨタはトラックやバスなどでFCVの展開に力を入れるほか、量産FCV「MIRAI(ミライ)」の次期モデルには窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)を吸引して排出する空気をきれいにするフィルター機能を付ける予定で、ゼロエミッション車からさらに進み、空気もきれいにする「マイナスエミッション車」として訴求する考えだ。

<中古車でも価値が維持できる電池に>

HVの3つの基幹部品のうち、電池の技術については「まだ完成していない」(寺師副社長)ため、トヨタは無償開放を今回見送り、個別に対応するという。トヨタはパナソニックとともに、20年末までの電動車用電池生産の合弁会社設立に向けて準備中だ。両社は20年代前半からHV用の約50倍の容量を持つEV用電池の量産を本格化するほか、リチウムイオン電池より容量が大きく安全性も高い「全固体電池」と呼ばれる次世代電池の研究開発にも取り組んでいる。

充電を繰り返すと携帯電話の電池が劣化するように、車載用電池でも経年劣化は大きな課題だ。寺師副社長は11日のロイターとの取材で、電池残量の減少を理由にEVの中古車価格が下がっている現状を受け、個人的な思いとして「5―10年乗っても、9割くらいは電池として使えるようにならないとお客様の車の価値にならない」と話し、技術の完成を目指すとした。

トヨタの品質が良くても、例えば、米国における中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)のように「海外では政治的見地から排除されるリスクもある」と、SBI証券の遠藤氏は指摘する。

トヨタは思惑通りに他社を囲い込み、電動車市場で存在感を示せるか。EVを強化している独フォルクスワーゲンなどの完成車メーカー、HV関連の部品・システムを外販する独ボッシュなどのメガサプライヤーが今後、どう動くかも注目される。

(白木真紀 取材協力:田実直美、Joe White 編集:田巻一彦)

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