食品宅配のトップランナー「生協」の物流イノベーションとは?
コロナ禍による巣ごもり消費拡大で食品宅配市場への注目が高まっている。2020年度、食品の宅配・通販市場は4兆円を超え、ニューノーマル時代を迎えて成長は続く見通しだ。その市場シェア獲得に向け、バックボーンとなる物流が重要なカギを握る。食品宅配のトップランナー、生協においても物流イノベーションが始まっている。
コロナ禍での安定供給のために進化を迫られる生協の宅配
巣ごもり消費拡大の追い風を受け、2020年度、生協の宅配事業は2兆1000億円(店舗を含めた総供給高は3兆3000億円)に達する。
その2兆円の事業をリージョナルに配置された宅配物流が支えている。温度帯の物流センターを全国に130カ所、2万人規模の配達スタッフがラストワンマイルを担い、1000万人を超える宅配組合員に週1回定期配達する。国内最大の宅配物流インフラが生協の強みになっている。
単価の安い商品を効率かつ大量に
食品宅配のビジネスモデルとして共同購入・班配送が1970年代にスタートし、以来、単価の安い商品を効率的かつ大量に処理する物流を追求したトライ&エラーの歴史がある。1980年代に生協物流の標準モデルとなるデジタルピッキングシステムとOCR注文システムを独自に開発し、この宅配システムによって食品宅配市場をリードしてきた。
単価の安い商品が対象となる食品宅配物流では、投資回収の関係で単に最新のシステムで自動化を進められない問題がある。未だ生協の物流センターの多くは人手に頼る労働集約型だが、近年、技術革新が進む中、一部の生協では自動・半自動化システムの導入が始まっている。
背景には、商品アイテム数や物量の増加、物流現場の人手不足問題などへの対応があり、会員生協から事業連合への物流にシフトする中で新設する物流センターは大型化傾向にある。
次世代の物流センターモデル
コロナ禍による大幅な需要増を受けて、物流センターの新設・リニューアルの計画が各地の生協で進行し、次世代の物流センターモデルとして次のドライグロサリー、要冷、日用品物流の3センターが注目されている。
①コープデリ連合会「野田船形物流センター」(千葉県野田市、17年6月稼働)=生協最大のグロサリー集品の物流センター。無線式表示器とRFIDを活用した最新式のデジタルピッキングシステム「eye-navi」導入ほか、商品補充と詰め合わせの仕分けラインも自動化した。
②コープさっぽろ「江別ドライセットセンター」(北海道江別市、18年9月リニューアル稼働)=次世代ロボット倉庫システム「オートストア」を小売りでは初めて導入した。日用雑貨品のアイテムを大幅に拡大し、自動化により最大24時間の稼働を可能にする。
③パルシステム連合会「熊谷センター」(埼玉県熊谷市、20年5月稼働)=グループ最大規模の要冷集品センター。集品システムで分岐型、定点ピックなど生協初の次世代システムを導入。ケース自動保管システム「マルチシャトル」、バイパス式ピックディレクター「BPD」など新システム導入で約5割の省人化を進めている。
いずれも物流・流通業界で最先端の物流システムを導入し、既存の物流システムとのハイブリッドで効率的な運用を追求している。また、投資額は大幅に増加し、たとえばパルシステムが02年に開設した「岩槻センター」(埼玉県さいたま市)の用地を含む総投資額50億円に対し、同じ要冷センターの「熊谷センター」に130億円を投じた。
食品EC、専用物流センターの新設進む
コロナ禍を機にネット通販、ネットスーパーやコンビニも積極的な食品のEC戦略を打ち出し、本格的な競争に向けて宅配専用の物流センター新設計画も浮かび上がっている。
店舗ピッキングが主流のネットスーパーでは、15年にイトーヨーカ堂が東京・西日暮里に物流拠点を開設して以降、ネットスーパーで物流センターの設置は進まなかったが、20年秋に楽天西友ネットスーパーが横浜に新物流センターを建設。イオンは英国のネットスーパー最大手のオカド(Ocado)と提携し、AI、ロボティクス機能を導入した日本初のCFC(カスタマー・フルフィルメントセンター)稼働を23年に計画している。
また、食品ECのオイシックス・ラ・大地は、20年10月に狭山ステーション稼働に続いて21年10月に出荷キャパで既存センターの3倍に対応できる海老名ステーション開設を予定している。
各社、物流基盤を整え、成長基調の食品宅配市場への攻勢を強めており、21年度、市場競争はさらに加速する見通しだ。今後、生き残りに向け消費者が欲しいものを欲しいときに、望む状態で届けることができるかが決め手になる。そのサービス品質に物流戦略が大きく関わっている。
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