今期のリフォーム市場は、新型コロナウイルスの影響を大きく受けた。緊急事態宣言が出された4~5月頃から、外出や接触を避ける動きが広がり、市場は沈滞化した。しかしその後、テレワークや外出自粛などで在宅時間が増えたことで、さまざまなリフォームニーズが活性化に向かっている。こうした新需要への取り組みが、今後の成長を図るうえでポイントにもなっていきそうだ。
本ページの構成は下記のとおり
カインズ:ケーススタディ
大建工業:ホームセンターチャネルを強化
TOTO:付加価値戦略の強化
ケーススタディ
株式会社カインズ
トイレや洗面化粧台の施工付きパックを訴求して成功
カインズのリフォーム部門では、店頭に商品を展示し、設備機器の販売や施工をセットにした提案を幅広く展開している。今期はコロナの影響を受けたことで、例年と大きく異なる動きがあった。
株式会社カインズ商品本部リフォームエクステリア事業部施工サービスバイヤーの山本篤志氏は、「3〜5月頃はどちらかといえば販売を考えるというより、メーカー側の安定した商品供給が滞る事態が起こり、まずその対処を重視せざるを得ませんでした。また感染防止の観点から積極的な営業やイベントも中止したことで、お客さまとの接点が減少し、売り上げには少なからず影響しましたが、このような状況下でも、多くの取引先の協力により在庫を確保していただき、工事の大きな遅れは防ぐことができました」と言う。
当初山本氏はコロナをきっかけに、逆に除菌や抗菌といったテーマでの販促が見込めると考えていたが、商品が揃わないなかでは難しかったと言う。
緊急事態宣言が解除される6月を前に、どのような施策であればお客様のニーズに応えられるか対策を打ち合わせた。先が見えにくい状況でもあったので、工期が短い物やDIY的な商品に注力することにした。除菌・タッチレス・巣ごもりをテーマに、生活必需品のトイレ・洗面化粧台といった水回り商品や、物置・カーポートなどの外回り商品まで、10万円以下の定額パックにて、どこよりも早く価格を訴求したチラシを掲載するほか、SNS等での訴求を行った。以降、小工事が中心ではあるが売上も前向きになり、販売動向の転換店となる。
中でもトイレ関係が好調で、除菌水を使用するトイレなどは、コロナ以前から主力のプライスゾーン商品として注力してきたこともあり、販売を伸ばした。
またそれ以上に大きな伸びを示したのがタッチレス水栓だった。「通常の混合栓と比べて3~4倍の価格帯になりますが、今年は、前年の40倍の伸びにより、混合栓の売り上げ№1商品となりました。また、コロナ禍での巣ごもり傾向の中、DIY商品の混合栓やシャワーヘッドが2倍以上の伸びで売れております」(山本氏)。
施工時に徹底したコロナ対策を行う「安心工事宣言」
コロナはこうした需要トレンドの変化をもたらしたが、やはりその背景にあるのは在宅時間の増加によって設備の使用頻度が増えたことや、自宅にいるときに、より快適な空間を求めるニーズが強まったことが考えられる。
山本氏は、「カインズは本格的な工事を依頼するチャネルとしてはまだ認知が低く、どちらかといえば設備機器の販売と施工が主になっていますが、本格的なリフォームを提供できる建設業登録のカインズ365を設立し、家一軒も建てられるレベルの体制整備を進めています。そうした能力を生かして、今後はテレワーク向けのワークスペース提案などにも力を入れていきたいと思います」と言う。
また同社では、施工時の接触による感染を防止するために、今期は「安心工事宣言」を打ち出した。施工スタッフには検温、マスク、消毒などを義務づけ、さらに顧客に対してもソーシャルディスタンスなどの配慮を求める説明を事前に行い、同意を求めた。「一部のお客さまと施工店で否定的なご意見もありましたが、ほとんどはかえって安心して頼める、工事を受けられるという評価をいただき、理解が得られたと考えています」という。
そのほか近年の傾向としては、窓用シャッターや屋根材などの防災関連商品が大きく伸びているという。「近年当社店舗も台風や水害の被害を受けるなど、自然災害が増えており、防災が社会的なテーマにもなっていますので、お客さまの関心も高まっています。実際に災害が起きてから対処するより、リフォームによる事前対策を行うほうが効果的なので、その点を啓発・提案するカタログやホームページなども用意しています」(山本氏)。
またこれまでも実施してきた「電球1個の交換」から自宅を訪問するスマイルサービスも好評。暮らしや住まいに関する困り事の相談に乗ることで、次のステップのリフォームニーズにつながる事例も増えている。「どんなことであれ、お客さまが求めるニーズに応じた幅広いメニューを提示できることが、今後ますます重要になっていくと思います」と山本氏は語っている。
大建工業
コロナ影響下の需要に対応、テレワーク向けの吸音機能や 抗ウイルス機能を提案
大建工業では、今期の新型コロナウイルスの影響によるリフォーム需要や意識変化を踏まえ、より快適なテレワーク環境の構築や、家族の安全や健康に配慮した機能を提案。ホームセンター(HC)チャネルを通じた訴求を強化している。
防音や調湿機能を兼ね備えた天井材
コロナの影響によってテレワークが普及するなど、自宅で過ごす時間が増えるトレンドが広がっている。これを受けて大建工業では、快適な空間を実現する機能性の高い建材を活用したリフォームの提案を強化している。
その1つが天井材の『クリアトーン』シリーズだ。近年の住宅は内装が洋風化したために高断熱と気密化が進み、室内に音が反響しやすく、時にはストレスにもつながる。『クリアトーン』は、独自のピン穴加工によって音を吸収する天井向け商材で、室内の騒音レベルを大きく軽減する。また『クリアトーン12SⅡ』シリーズでは、湿度が高いときは湿気を吸収し、湿度が低いときには湿気を放出する調湿機能や、消臭機能を兼ね備えている。室内の乾燥はウイルスの活性化にもつながるため、適度な湿度維持によって家族の健康に寄与することにつながるなど、多くの利点を持った製品だ。
国の政策面でも、2021年度から在宅勤務向けリフォームに対する補助事業が概算要求に盛り込まれるなど、需要を後押しすることが期待される。
抗ウイルス仕様の『ビオタスク』
さらに在宅時間の増加で室内環境への意識が高まっていることから、抗ウイルス機能を持った『ビオタスク』仕様の製品も注目されている。『ビオタスク』は空気中や手から製品上に付着した特定ウイルスの数を減少させる、同社独自の抗ウイルス機能。もともと新型インフルエンザの流行による感染症対策への関心が高まったことから
同社の研究開発拠点であるR&Dセンターで開発された技術で、レバーハンドルや手すりなど、 手で触れる製品に付与されている。20年には抗菌製品技術協議会(SIAA)による抗ウィルス認定を取得したことで、さらに関心が高まっている製品だ。同社ではこうした多様な提案を行うと同時に、HCチャネルによる訴求力強化にも取り組んでいる。リフォーム向け建材は、店頭在庫品の機能や特徴がわかりにくい場合がある。こうした状況を改善するため、サンプルなどのほか、店舗向け製品勉強会の実施や、詳しい説明を記載した掲示用のPOPを用意するなど、よりわかりやすい販促サポートに取り組んでいく方針だ。
TOTO
〝ちょっぴりいいものを〞という需要に向けて付加価値商品の店頭提案を強化
コロナ禍による在宅時間の増加によって、快適・エコ商品の堅調な売上を記録しているTOTO。ショールームなどで実際に製品に触れる機会が制約されることの影響はあるが、家電や住宅設備へのこだわり消費、こだわり投資のトレンドを踏まえ、ウォシュレットなどの付加価値商品提案を強化している。
清潔さや非接触への関心が高まる
TOTOの2020年は新型コロナウイルスの影響でショールームなどでのコンサルティングが基本となるバス関連、キッチン関連の商品の実績は厳しい時期もあったが、その後持ち直し傾向にある。一方、トイレ関連商品である「ウォシュレット」は、堅調に推移している。コロナの影響によって在宅時間が増え、トイレの使用頻度も増えたことで、設備の見直しをする層が増えたことが背景と考えられる。
とくに〝清潔さ〞や〝非接触〞というポイントへの関心が高まったことが追い風にもなった。もともとTOTOではコロナ以前から、「びっくリーン技術」と名付けたトイレ関連商品の機能訴求を強化していた。具体的には使用するたびに便器やノズルを除菌水で洗う機能や、汚れがつきにくい陶器表面の加工技術、ふちなしで掃除しやすい便器形状などだ。こうした訴求がコロナ禍の中で注目を集め、関連機能を持つ上級機種の好調につながった。
また非接触という観点からも、便座・便蓋が自動的に開閉する機能(オート開閉機能)なども注目されるようになっている。
付加価値商品の品揃え強化を提案
TOTOでは、これに加えて消費者の間で在宅時間の増加による消費トレンドの変化が起こっているとみている。家にいる時間が増え、家の中の耐久消費財をみ直す機会となったことで、その買い換えにお金を使うというトレンドや、せっかく買うなら〝ちょっぴりいいものを〞という志向が強まった。
こうした両面から、ウォシュレットではホームセンター(HC)で売れ筋となっている比較的価格の安い「貯湯タイプ」ではなく、上位機種に当たる「リモコン瞬間タイプ」の売上が好調だ。同社ではHC店頭でオート開閉機能や電気代がお得になるなど付加価値の訴求により「リモコン瞬間タイプ」の品揃え強化を提案している。とくに18年に発売したKSシリーズは約4万円の価格で「リモコン瞬間タイプ」が購入できるとあって大きく売上を伸ばしている。
またTOTOでは、付加価値商品の販売のために、店舗の販売スタッフ向けの接客や商品勉強会を強化している。これまでの店舗での勉強会に加えリモートで行う体制を整備し、内容の充実を図っている。新たな形態で店舗の顧客対応力のサポートに乗り出している。