祖業への原点回帰とOMO 急加速するアリババとJD.com の急所とは
「淘宝網(タオバオ)」や「Tモール(天猫)」などを運営するアリババ(Alibaba)と、「JD.com」などを展開する京東(JD.com)。両者ともに中国のEC市場、ひいては小売市場全体で大きな存在感を示してきた。直近では新興ECに押されつつも、“原点回帰”の戦略を打ち出し依然として強さを発揮。そしてさらなる成長をめざし、新たな柱となる事業を生み出そうと試行錯誤している。
創業者の“喝”で原点回帰し復調へ
アリババと京東の業績は、中国経済が全体的に弱含みであるなか、堅調に推移している。もともとアリババは日用雑貨、京東は家電製品と電子製品を強みとしてきたため、不景気下でも比較的耐性のある企業ではある。しかし、近年は激安ソーシャルECとして躍進する「拼多多(ピンドードー)」や、中国版TikTok「抖音(ドウイン)」、「快手(クワイショウ)」などのライブコマース型ECの台頭に押され気味であった。
そこに“喝”を入れたのが、それぞれの創業者の言葉だった。
アリババの創業者ジャック・マー氏は、「タオバオに帰ろう」という“祖業”への原点回帰を促すメッセージを社内に送り続けた。これにより、タオバオは、従来の「取引単価重視」から「取引頻度重視」へとKPI(重要業績評価指標)をシフトさせた。
2003年に誕生したタオバオは、米eBayをモデルに、商品を売りたい人と買いたい人をマッチングさせるサービスから始まった。それが小売業者、各種ブランドが参入することにより、B/CtoC型ECとして発展。当初は取引頻度が重視されていたが、流通総額を増やすために取引単価を引き上げる施策が進められるようになる。ここに拼多多や抖音に食い込まれる隙が生まれた。とくに拼多多は、低価格の日用雑貨と食品に的を絞り、タオバオの販売価格を高いと感じる層の多い地方市場でシェアを取り、タオバオの市場を蚕食し始めていた。
こうしたなかで発せられたジャック・マー氏の言葉には、「タオバオをアリババの中核事業として再認識しよう」という意味と、「タオバオの原点の頃に戻ろう」という二重のメッセージが込められていた。
これにより変わったのが、タオバオのアプリだ。以前は商品を探して購入することに特化したアプリだったが、「発見」というコーナーが新設され、ここにはユーザーの購入履歴に基づいたおすすめの商品のショートムービー、ライブコマースが一覧で表示されるようになった。使い勝手は「インスタグラム」や「TikTok」のようなビジュアル系SNSに近い。ウィンドウショッピング的な楽しみ方ができるアプリへと変わったことで、ユーザーの滞留時間が大きく伸び、取引回数も上昇傾向にあるのだ。これにより、23年4~6月期の平均MAU(月間アクティブユーザー数)は8.77億人、対前年同期比8.7%増と大きく拡大している。
一方の京東も、
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