コロナが明けても安心できない外食大手の経営環境と深刻な課題

中井 彰人 (株式会社nakaja labnakaja lab代表取締役/流通アナリスト)
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独立開業を支援する新たな動き

 外食チェーンの環境変化を踏まえた方向性を見てきたが、最後に、ちょっと毛色の変わった戦略だが、個人的に関心を持っている施策を、2つ紹介しておきたい。

 1つ目はロイヤルHD(福岡県/阿部正孝社長)が双日(東京都/藤本昌義社長)とSRE HD(東京都/西山和良社長)と3社でスタートした飲食店開業支援プラットフォームである。ロイヤルHDは自らのノウハウを提供して、開業、もしくは開業間もない中小飲食店を支援する。業界の活性化を支援し、新しい外食ニーズを把握するということなのだが、最終的にはアライアンス(連携)によって、グループの新たな業態開発につなげていこうというオープンイノベーション的な方向性だと解釈する。

 ある程度完成した業態のM&Aというのが、業界一般的な行動パターンであったが、加えてベンチャースピリットにあふれる新規参入者集団のチャレンジ精神を取り込みつつ、先物買いで自社の多様性を補完していくという方向性は、これからのトレンドになると期待する。

 そしてもう一つはファミレス大手の一角、ジョイフル(大分県/穴見くるみ社長)による既存店舗の社員独立型フランチャイズ(FC)店への移行という取り組みである。既存店を経験豊かな社員が、FC加盟店となって独立して運営するという仕組みであり、複数店経営も想定している。経営者として独立し、さらに事業拡大も追求できるというものだ。希望するベテラン社員に新たな目標を持ってもらうことで、モチベーションにもつながり、本部と共に共存共栄しようという発想であろう。

 現在の人手不足、人件費高騰の中、意欲と実力ある社員をパートナーとして遇するという方向性を示すことは、優秀な人材をグループ内に確保する効果があるはずだ。これまでも壱番屋(店名:COCO壱番屋)、王将フードサービス(餃子の王将)、鳥貴族など、こうした社員独立型FCを活用する企業は存在していたが、今後はFCを現場のモチベーション向上のためのキャリア形成のツールとする企業が増えていくだろう。

 ただ、注意すべきは、この手法を単なるチェーン本部の労務リスクの分散として実施すれば、必ずやFC加盟店との利害対立を引き起こす、ということである。本部と加盟店が共存共栄していくという基本精神を逸脱すれば、後に大きな禍根を残すことになる。過去のFC本部と加盟店の争議事例で学んでおく必要がある。

人の意欲を高める施策が必要に

 今後の外食業界は、飽和から縮小に向かう市場環境の下で、従業員を大事にしつつ、新たな市場開拓を続けていかなければ、成長することは難しい。そこで必要になるのは人の集団としてのモチベーションをいかに保てるかということになるのだろう。

 本来、外食産業は参入障壁も低いため、多数のチャレンジャーが参入しながら、激しい競争と淘汰を経て成長していく、というアニマルスピリットが求められる業界である。外食創業者のベンチャー精神、独立して自分の店を持ちたいというスタッフの意欲が企業の競争力につながってきた。

 かつてはスタッフを物理的な労働力としてみるチェーンストア理論が、大手チェーンの成長の基盤となってきたことは事実だが、この理論は完成形ではない。実際に組織を構成するのは独立した個人であって、個々の自己実現を描けない企業に持続性はないのである。開業しようとする人材、独立の夢を持った人材とのパートナーシップを構築できるかが、これからの外食企業の成長の鍵となる。

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記事執筆者

中井 彰人 / 株式会社nakaja lab nakaja lab代表取締役/流通アナリスト
みずほ銀行産業調査部シニアアナリスト(12年間)を経て、2016年より流通アナリストとして独立。 2018年3月、株式会社nakaja labを設立、代表取締役に就任、コンサル、執筆、講演等で活動中。 2020年9月Yahoo!ニュース公式コメンテーター就任(2022年よりオーサー兼任)。 2021年8月、技術評論社より著書「図解即戦力 小売業界」発刊。現在、DCSオンライン他、月刊連載4本、及び、マスコミへの知見提供を実施中。起業支援、地方創生支援もライフワークとしている。

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