コロナが明けても安心できない外食大手の経営環境と深刻な課題

中井 彰人 (株式会社nakaja labnakaja lab代表取締役/流通アナリスト)
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原材料高と運営費の高騰が収益を圧迫

kool99/istock
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 コロナ禍による災害的な需要減からは解放された業界ではあるが、一難去ってまた一難、新たな課題に見舞われている。①原材料、光熱費、物流費など運営コストの高騰、②人手不足と人件費の高騰、③実質賃金マイナスの継続による消費マインドの低下懸念、そして中長期的課題ではあるが、④人口減少高齢化による国内市場の縮小、といった課題に同時並行的に対応していくことが求められており、これまでにも増して経営のかじ取りは難しくなっている。

 外食大手の今期計画における取り組みを見ても、そうした状況に対する問題意識がうかがえる。外食大手の決算説明における今期取り組み事項として、共通して登場するキーワードをいくつかピックアップしてみた。「デジタル化」「自動化」「省人化」「海外進出」「M&A(買収・合併)」「人材投資」などといったといった項目が並ぶのであるが、まさに今直面する環境変化への対応ということになっている。

 コロナ後に急速に上昇した原材料、運営コストの高騰に対して、多くの企業では価格転嫁により収益の確保を試みてはいるのだが、値上げが客足に影響することを恐れ、様子見しながらの対応とならざるを得ず、結果的には収益減少要因となっている。

 決算説明においてコスト増の影響を数字で明らかにしている企業もあり、たとえば大手では、すかいらーく▲92億円、日本マクドナルド▲38億円、ロイヤルホールディングス(以下、ホールディングス=HD)▲24億円、壱番屋▲17億円の原価上昇による減益要因となったと開示している。こうした影響は業界全体として収益に大きなマイナス影響を与えており、この点では各社共に今後の価格転嫁の巧拙が、業績にかなり影響を与えることが考えられる。

深刻な人手不足が促す技術革新

 原材料、運営コストの高騰以上に深刻な状況にあるのが、人手不足と人件費の高騰という問題であろう。全産業に共通の話なのではあるが、労働集約的産業であり、これまでは非正規雇用の労働力を安価で調達することに依存してきた外食業界にとっては、極めて頭の痛い問題ということになる。

 単なるコストの問題ではなく、店舗オペレーションが人手の確保を前提に構築されているため、費用の問題以前に、人がいなければ店を開けることすらできないという根源的な話である。人口が減少しているのだから、従業員の定着率を上げていくこと、最終的にはDX(デジタル・トランスフォーメーション)化、ロボティクスの導入などによって、省人化、無人化によって対処するほかはなく、ここに関しては外食企業の大半が何らかの取り組みを行っている。

 最近、チェーン外食に行くと、注文はタブレット、もしくは自分のスマートフォンから、配膳はロボットで、会計はセルフレジでというのも違和感がなくなってきた。大手でなくても、ほとんどのチェーン店で何らかの省人化システムが導入されており、今後さらに多くの企業が多様な仕組みを導入していくことになる。

 こうした仕組みの開発においては、IT系ベンチャー企業による技術革新の活躍が大いに期待される。外食業界はこれまで「安い人力」に依存したビジネスモデルが基本であったが、従業員を大事にしつつも、DX、ロボティクスに頼るしかない。ただ、こうした切羽詰まった状況が、技術革新への投資を後押しとなることが期待できる、という見方もあるだろう。

円安が海外事業の強化を加速

 原材料やエネルギーの高騰に関しては、円安が価格上昇の主要因ともなっており、為替リスク分散という意味でも、海外進出を強化する企業は増えている。

 決算期が8月のため半期決算ベースだが、サイゼリヤ(埼玉県/松谷秀治社長)は売上高の1/3が海外となっている。2024年8月期第2四半期の営業利益はそのほとんどがアジアで稼いだものであり、原価高騰に苦しみながらも価格据え置きで頑張っている国内の営業利益はやっと収支がトントンになったばかりである。同じく9月期決算のFOOD&LIFE COMPANIES(大阪府/水留浩一社長)も海外部門が売上高、利益共に国内スシローの半分に迫るほど貢献している。

 価格転嫁の悩みもあまりなく、円安による為替メリットも享受可能な海外事業は、課題の多い国内で苦しむ外食大手の大きな支えになっている。今回、決算期の外食企業においても、海外進出強化への取り組みを計画する企業は多い。すかいらーくHD、ロイヤルHD、吉野家HD、壱番屋、トリドールHD、王将フードサービス、モスフードサービス、ゼンショーHD、コロワイドなど、名だたる外食チェーンが海外強化への意欲を明らかにしている。

 そもそも国内で一定のシェアを確立しているチェーンにおいては、国内での飽和に備え、海外市場開拓は成長戦略を描くうえで必要なストーリーであり、外食を取り巻く環境の変化が、否応なしにその背中を押すことになりそうだ。

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記事執筆者

中井 彰人 / 株式会社nakaja lab nakaja lab代表取締役/流通アナリスト
みずほ銀行産業調査部シニアアナリスト(12年間)を経て、2016年より流通アナリストとして独立。 2018年3月、株式会社nakaja labを設立、代表取締役に就任、コンサル、執筆、講演等で活動中。 2020年9月Yahoo!ニュース公式コメンテーター就任(2022年よりオーサー兼任)。 2021年8月、技術評論社より著書「図解即戦力 小売業界」発刊。現在、DCSオンライン他、月刊連載4本、及び、マスコミへの知見提供を実施中。起業支援、地方創生支援もライフワークとしている。

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