独自決済を導入する前に、「nanaco」と「ワオン」の相互乗り入れをすべき、必然の理由
マーケティングのパラダイムシフトを
小売経営者は理解していない
結論から言えば、根底にあるのは「ID-POSの普及を背景としたマーケティングのパラダイムシフト」と、それに対する多くの小売企業経営者の理解不足である、と筆者は考えている。具体的には、「POSによる単品管理」⇒「ID-POSによる単品”単人”管理」である。「単品”単人”管理」を横文字で表現すれば、「CRM」(Customer Relationship Management:顧客関係管理)となろう。
そして、顧客データ(購買履歴)の蓄積と固定客化に際しては「オープンに集客、クローズドにおもてなし」が鉄則となる。すなわち、集客の間口は広く(=普及度が高く、アクセスが容易で利用しやすいメディアの活用)、顧客の囲い込み策では、上位顧客に限定して集中的に費用投下するということである。それらは具体的には、割引クーポン配布やポイントカードのポイント政策として実行される。
その際、起点となるのは、ポイントカード(スマホアプリ含む)となる。理由は「ポイントは購買データを取得するための“エサ”」であるためだ(令和の時代において、ポイントを単なる販促手段と勘違いしている小売関係者は少ないと信じたいが、どうだろう)。そして、来店するお客さんに幅広く網掛けする(幅広くデータを取得)ためには、間口の広さが必須である。お店で買い物するお客さんの数は多い順に「現金払い→ポイントカード保有客→電子マネー払い→その他クレジット」となることが一般的であると見られることから、まず、現金払いのお客さんをポイント会員にとりこんで、データ取得の間口を広げるのが鉄則となる。プリペイド型電子マネーやクレジットカード機能は、あくまで現金ポイントカードの付加機能と位置づけられるべきである。
7&iは当初から優先課題を誤っていた
ここで、7&Iの井阪隆一社長の過去の発言を振り返ると「決済を中核にすえたCRM」旨の内容を述べている(2019.2期中間決算説明会)。これは、上記で述べた通り、後ろ(=客数の少ない分類)から入ろうとしていることになり、(始める前から)困難が予想できたと言えよう。同社が最優先で取り組むべきだったのは、「nanaco(ナナコ)」と「セブンアプリ」を含めたポイントカード(購買履歴データの取得手段)の整理・再構築であり、決済手段の追加ではなかったはずである。
ちなみに、ポイントカードのポイントの機能(利用方法)の1つは、1点=1円として、端数処理できることだ。現金払いの際、1円単位をポイント処理する(支払う)ことで、財布の中で1円玉がじゃらじゃらするのを避けることができる。大手コンビニ3社の中で、唯一、セブン–イレブンだけが当該処理ができない(ファミリーマートとローソンでは各種ポイントカードで端数処理ができる)。セブン–イレブンで現金で買い物をすると、財布の中に1円玉がそれなりに混じるのだが、まずは、こうした最低限の不便解消を優先してはいかがだろうか。
そして、もう1点、重要なことは、決済手段に求められる大原則が「汎用性」であることだ。現在の日本において、現金の最大の利点は(まず100%受け入れられる)汎用性であろう。逆に言えば、利用できる範囲が極めて狭い決済手段を消費者に強いることが、果たして顧客満足につながるのであろうか。
セブン–イレブンとマックスバリュで買い物しようとした場合、乱暴に言えば、現金か交通系電子マネー(例:Suica、PASMO)となる。なぜならば、「nanaco」と「WAON(ワオン)」は互換性がないためだ。