瀬戸内オリーブ基金への支援 #2 建築家・安藤忠雄氏と柳井正社長との22年間の交流
柳井正社長との交流
──安藤先生と柳井社長が出会ったきっかけ、経緯を教えてください。
「柳井さんと出会ったきっかけは、共通の友人による紹介でしたが、その後何年にもわたるお付き合いの発端となったのはやはり『瀬戸内オリーブ基金』でした。大阪に生まれた私と同様、山口県出身の柳井さんもまた、瀬戸内海に強い思い入れを持つ一人として、この活動に強い興味を示して下さりました。ご自身で多額の寄付を行う一方で、当時すでに全国500店以上あったユニクロ全店に募金箱を設置し、集まった寄付金に社として同額を上乗せして寄付する、いわゆるマッチング寄付をご提案頂いたのです。まずその決断のスピードに、感銘を受けたことを覚えています」
──ユニクロ、あるいは柳井社長との交流の中で、印象的なことがあれば教えてください。
「圧倒的な商売の勘とアイデアでユニクロの世界戦略を牽引する柳井さんの姿から、瀬戸内での地道な植樹活動を連想するのは難しいところです。世界の第一線をひた走るビジネスマンの、意外な一面とも言えるでしょう。しかしその意外性は、ブランドイメージにもそのまま色濃く反映されているように思います」
「私にとってユニクロといえばやはり社長である柳井正さん個人のイメージが強い。それは、ユニクロというブランドをよく知るより先に、柳井さんその人と知り合ったことも一つの理由ですが、なによりも柳井さんという人物のインパクトの強さによるところが大きいと思います」
安藤忠雄氏にとって、ユニクロとは?
──ユニクロというブランドにはどのような印象をお持ちですか?
「ユニクロは、ただ寄付金を集めるだけでなく、全国の店舗スタッフから有志を募り、定期的に豊島で植樹をはじめとしたボランティア活動にも取り組み、今日までずっと続けて下さっています。こういった一連の活動を通して、私のユニクロというブランドに対する初期印象が固まりました。商品を深く知ることになるのはその後の話です」
「ユニクロというブランドが人々に愛されてきたのは、単に安くて質の良い商品を展開しているからだけではなく、フリースやヒートテックといった革新的な商品を次々に打ち出して、新しい世界を切り拓いてきたからだと思います。人々の生活文化に変革を与え続け、今や日本を代表するファッションブランドへと成長しました」
瀬戸内オリーブ基金以外の取り組み
──瀬戸内オリーブ基金以外で、ユニクロやファーストリテイリング、柳井社長と一緒に取り組まれている社会貢献活動について教えてください。
「社会貢献活動は、今や企業の当然の責務となりつつありますが、ユニクロはその先駆的存在です。2011年の東日本大震災でも、迅速かつ多大な支援を行われました。ユニクロのCSR(企業の社会的責任)には、たとえ広報的なメリットにつながらなくとも社会的に意義があると判断すれば、実務レベルから積極的に参画していく印象があります。それはひとえに、柳井さんというトップの決断力と行動力の表れであり、他の企業に簡単に真似できるものではないと思うのです」
「被災地の子どもたちの遺児育英資金を立ち上げよう。そう考えた私が真っ先に電話したのは、やはり柳井さんでした。同じように、震災で親を亡くした子どもたちを支援したいと考えていた柳井さんは、『やりましょう』の一言。他に文化人や経済人を発起人として募り、『桃・柿育英会』が発足しました」
今後ユニクロに期待することは?
──今後、ユニクロという企業に期待されることがあればお聞かせください。
「柳井さんは、すばらしい発想力と行動力を持ち、責任感の強い、類まれな経営者です。建築家の仕事も、いかにして緊張感を持続するかが課題となります。新しい世界を切り拓く勇気が無ければ、先に進むことはできません。その意味で、常に新しいことに挑戦し続ける柳井さんの姿勢には、学ぶところが多いです」
「柳井さんには、その失敗を恐れない、柔軟な経営戦略を持って、100歳になるまで走り続けて頂きたい。そしてユニクロは、今後も世界を舞台に、日本に元気を与え続ける企業であり続けて欲しいと願っています」
2017年に国立新美術館で開催された「安藤忠雄展」には、「挑戦」というタイトルがつけられていた。「挑戦」とは、安藤氏が、既成概念を打ち破るような斬新な建築作品を次々と世に送り出してきたことと同時に、建築の枠をも超えて社会活動へ果敢に取り組んできたことを指しているのであろう。ユニクロの柳井正社長もまた、挑戦を続けてきた経営者の一人である。二人の挑戦者が、お互いを深く尊敬し、信頼し合っていることをひしひしと感じた。
次回「第4回 スポーツアンバサダーと取り組む次世代育成」では、車いすテニス界のレジェンドで、ユニクロのグローバルアンバサダーの一人である国枝慎吾氏に取材する。
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