イズミが西友の九州事業を買収、激動の九州小売マーケットを制するのは?
中四国ではイオンの後塵
九州ではイオンと伍して戦うイズミだが、中四国に目を移すと、流通大手イオンの底力に直面している。
中四国におけるイオン地域子会社はこれまで、マックスバリュ西日本であった。同社の2016年度の売上高は2782億円と、イズミが(食品スーパー子会社ユアーズと合算)約3500億円で上回っていた(イオンリテールの地域別売上が開示されていないので、地域子会社との比較となる)。
しかし、マックスバリュ西日本が四国、岡山などで高いシェアを持っていたマルナカ(現マックスバリュ西日本)グループを統合した後に、四国の有力チェーンである「フジ」と統合したことによって、新生フジ(広島県)は売上8000億円を超える上場食品スーパーのトップ企業となり、イズミははるか後塵を拝するようになってしまった。
地域の有力食品スーパーをも傘下に入れていく大胆なM&Aを駆使するイオンに、地域企業がシェア競争で対抗していくことは容易ではないようだ。
ちなみに、西友は九州事業を売却とほぼ同時に、北海道事業の売却も発表しているが、この買い手はイオンである。北海道においての食品流通のシェアは、地場有力スーパー連合のアークス(北海道)、イオン、生協のコープさっぽろ(同)が25%、22%、22%ほどで3強となっていたが(数値はアークスHPより引用、ただし食品以外も含めた売上高ではすでにイオンがシェアトップ)、ここでもイオンがトップシェアに迫ることになった。
アークスは、地場有力スーパーのラルズ(北海道)が、同じく地場の福原(同)などを糾合して、道内で存在感を強めるイオングループに対抗するために経営統合した企業で、さらに地域を北東北、関東などに広域化して売上高6000億円規模の大手食品スーパーに拡大している。
全国展開しているイオンが各地域で有力企業を誘い込んで規模拡大を進めていくことで、対抗する地場スーパーの再編も進行するという構図が、この業界でのメーンシナリオとなっているのである。
デフレ終焉で加速する業界再編
長く続いて来たデフレが終わり、インフレを前提とした消費環境に転換することがほぼ確実になってきた今、こうした再編にも新たな要素が加わりつつある。それは労働集約的な構造となっている食品スーパーのオペレーションが、人手不足と人件費高騰によって成立しづらくなってきた、ということである。
食品スーパーでは、各店舗のバックヤードで最終加工を行い、鮮度訴求することが一般化しているが、原材料高騰による価格転嫁のタイムラグとエネルギーコストの高騰によって、そのベース収益力は確実に低下しつつある。そこに、最大のコストである人件費が高騰し、人手の確保も困難な状況が常態化すれば、これまでと同じオペレーションでは維持できなくなる、ということだ。
最近も、女性や高齢者の就業率が上昇してきたことから働き手の予備軍はほぼ枯渇してきた、というニュースが報じられていた。今後、人口減少が避けられないこの国において、非正規労働者をあてにした労働集約的オペレーションを維持することは不可能であり、食品スーパーで言えばバックヤードで分散して流通加工をする手法(インストアオペレーション)を守り続けることは困難になると考えるべきであろう。
つまり、大規模な投資を必要とする加工センター、セントラルキッチンを活用した生産性の向上に向かわざるを得ない、ということである。
食品スーパーは、地域ごとの有力スーパーが分散割拠して、規模が大きいことが必ずしも消費者の支持につながらない、という状況が長く続いてきた。
その要因は、インストアオペレーションに起因しており、規模の利益があまり働かないという前提で、生産性は低くても、品質や品揃えに優れた企業であれば、大手に対抗することができた。しかし、人が確保できなくなってしまえば、オペレーション自体が成立せず、センターや物流、それを制御するDXへの投資余力がない企業は、徐々に追い込まれていくことになる。
人口減少は、マーケットを縮小させるだけではなく、労働集約的な産業を淘汰する大きな圧力となる。そして、デフレの終焉による人件費高騰は、寡占化に向けた業界再編を一気に加速させる転換点となるだろう。
イオンが全社ベースで7%、という大幅賃上げを業界に先頭に立って実施するのは、こうした背景を踏まえた必勝の一手に他ならない。
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