クシュタール買収提案でセブン&アイがいますぐすべきことと3つのシナリオとは

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今後考えられる3つのシナリオとは

クシュタールの店舗

 では今後どうなるでしょうか。現実的には3つのシナリオが考えられます。

 第1は、クシュタールが買収価格を引き上げるケース。

 この場合は、当局の承認が得られる見通しである限りセブン&アイは受諾せざるを得ないと思われます。

 ただし、現金による株式買付の場合は負債が一時的に重くなりますので、合理化が不可避になりますが、先に述べたように、過剰な合理化は体力を削ぎます。セブン&アイのEBITDAの中核を担い競争力の高い国内のオペレーションはクシュタールから治外法権にすること、米国ではガソリン調達のシナジーを迅速に最大化すること、「フードのプライベートブランド(PB)化とアップセル」をクシュタール店舗も含めて一気に展開することが必要です。この点が担保されれば、拒絶する理由はなくなると思います。

  第2は、交渉が膠着するケース。この場合、セブン&アイは懸案の米国での既存店商品売上高を得意のフード・PBで回復させ、それを手がかりに負債調達余力を使い切る程度の次のM&Aをしかけることになるでしょう。その場合、クシュタールも同様の戦略を進めることになりますが、米国コンビニ業界は寡占化の初期段階であるため、この2社の最終的な対決があるとしてもそれは先になることでしょう。

 第3は、資本業務提携。株式を持ち合い、セブン&アイはガソリンの供給を受ける代わりに、商品販売についてはクシュタールにフランチャイジーになってもらうなどの選択肢を検討するかもしれません。規制当局の反応次第ではありますが、資金をかけずに実を取り相性を見るひとつの戦略ではないでしょうか。

  今後のシナリオは不確実ですが、セブン&アイにとってひとつ言えることは、株価が下がればクシュタールによる買収が財務面で容易になるということです。セブン&アイには米国で早急に成果を出さなければならない強力なプレッシャーがかかっているのです。

 これは同社が将来マクドナルドやスターバックスなどのグローバルFCと比肩する立場になるために避けて通れない道です。今後の展開から目が離せなくなりました。

 

プロフィール

椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師

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記事執筆者

都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。

米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師

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