1年で株価2.3倍!三陽商会、24年度上期黒字化の意味と残された大きな課題とは
いまアパレル企業が好調な2つの理由と
三陽商会の課題
訪日外国人客は、日本の中(途半端)価格帯を「安い、安い」と感じて買っており、日本人は日本人で、人流が回復し「さあ、外でお買い物だ」とこれまでの我慢の反動が起きたのである。加えて、一時的な百貨店アパレルの店舗大撤退による残存者利益の享受も無視できない。百貨店側ももはや地方から戦闘力を失い、デベロッパー業に移行。顧客データもテナントと共有化し始めたことも追い風になっている。
しかし、西武・そごうがファンドに売却され、全国百貨店が180店舗を切るなど市況は決して上向きになっていないし、EC化率を高めなければ、顧客ニーズに対応しきれないばかりか、いつ起こってもおかしくないと言われて久しい関東直下型地震や疫病など地政学リスクにも耐えられなくなる。つまり、ビジネスモデルが古いのだ。この連載の読者であれば、私が何度も解説してきた海外の先端アパレルのビジネスモデルと日本企業の実際との間で大きな差があることをご存じだと思う。
ターンアラウンドには、「Shrink to growth」という言葉がある。私は「飛び上がる前にしゃがみましょう」といって説明している。三陽商会は今、そのシュリンク・フェーズがようやく終わって過去の膿をだしたわけだが、ビジネスモデルを21世紀型の勝ち方、D2C、越境ECなどに変えなければ、本当の意味で三陽商会が再浮上するとは思えない。
KPI分析から見える改革の本質
前述の通り原価率は売上対比で48%となり、50%を切っている。「売価を12ポイント上げた」ことが大きく寄与しているようだ。
アパレル・ビジネスのKFS(成功の鍵)は、「セールをしない」「仕入れた在庫はすべて売り切る」の2つのである。このうち「セールをしない」は常に波紋を呼ぶ施策であり、「セールをしなければ客は買わなくなる」「いや、欲しいものなら買う」と真反対の意見が激しく出るものなのだが、現時点での結論は「値段を上げても買う」が正解だったように見える。
したがって、この上半期で好決算をだしているアパレルは、みなセール抑制をしている。それでも、いまや百貨店の上得意様である訪日外国人客にしてみれば、円安効果により値段は相殺され、セール前のプロパー価格でさえ安く思えるほどだ。
今、アジアの富裕層はブランドモノを日本で買えば、安心安全でしかも安い、ということになる。しかし、為替は水物で、このまま円安が未来永劫続くはずがない。私が商社にいたとき、部長はいつも「これからは1ドル=1円の時代が来る!輸入と内需だ!」と発破をかけていたが、今は真逆なことがおきている。マクロでみれば為替や株価はアップダウンを繰り返す。とくに、素人個人投資家が増えれば、愚民政治のように株式市場は非効率的になってゆく。これはもはやカオスの世界で、学者や新聞の論説の説明は、常に後追いだ。再現可能で未来予測できるようなフレームワークはできていないし、真反対のことをいう学者もいる。例えば、株価なども一国の市場を揺るがすヘッジファンドの介入とSNSでの呼びかけの対決が有名になったが、デジタル時代は、このように思いも寄らぬところから矢羽根が飛んでくるのだ。
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