世界最強のユニクロ5兆円に自信のワケ!ファストリ23年8月期決算徹底分析
ユニクロの最重要戦略拠点は海外 5兆円に自信の理由
さて、ここからは海外事業に絞って分析を進める。まずは中国を軸とする「グレーターチャイナ」だ。私も、冒頭の質問者が懸念するように「中国は特別な市場、後出しじゃんけんで法律をコロコロ変える」という思いもしてきたし、商社マン時代に経験もしてきた。そして、コロナで視界が悪くなっていた中国で同社はサプライチェーンの分断を業績低迷の要因にしていたが、それが正しかったことを今期証明した。グレーターチャイナの結果は、売上収益は6,202 億円で対前期比15.2 %プラス、営業利益は 1,043 億円でなんと 25.0 %プラスと、過去最高の業績を更新した。
中国は若者の失業率が20%を超え、不動産バブル、「国潮」(中国の商品を見直し、海外製品を買わないようにしようという国策)がリスクであることは、1年前にこの論考で記載した。しかし、柳井氏のいうように人間の本質は変わりない、Made for Allは、この「一般論」を吹き飛ばした。
某経済紙は中国集中リスクを上げているが、「ファストリが5兆円の道程は見えている」と云っているのを忘れたのだろうか。ファーストリテイリングは、伝統的に難易度の高い国から攻めるのだ。はじめて海外に進出したときも、中国でも米国でもなく、ロンドンだった。そして、成長著しい東南アジアやインドなど、金脈が山のように眠っている市場にでてゆけば、ポートフォリオとしては中国一辺倒にはならない。そのぐらいは過去の戦略の文脈から分析してもらいたいものだ。
次に「韓国・東南アジア・インド・豪州地区」。その中でインドネシアは、東南アジアでも最重要エリアだ。私が世界一の流通コンサルティング会社、カートサーモンMD会議で上海に出向いたとき、カートサーモンのグローバルリーダー達は皆インドネシアにターゲットエリアを絞っていた。人口の爆発的な増加と相対的なカントリーリスクの低さである。ファーストリテイリングは、インドネシアを除くすべてのエリアで大幅な増収増益、インドネシアも販売は好調だったが、セーフガードの影響で粗利率が低下し、減益になっている。
「北米」は売上43.7%増、営業利益91.9%増と驚異的な伸び、そして最後が「欧州」である。売上収益は1,913 億円で49.1%のプラス、営業利益は 273 億円で 82.5%のプラス。ここまできたら、ユニクロに対するあら探しが無意味に見えてくる。本稿執筆の10月13日のファーストリテイリングの株価は先読みをしていたにも関わらず、さらに大きく跳ね上がった。
そして、私がテクニカル・ノックアウトを食らったのは、ファーストリテイリング連結バランスシートの流動資産についてである。なんと、過去最高の売上を達成しながら昨対比で約2億円も下がっているのだ。率でなく額だ。
当然ながら売上を作るためには在庫が必要で、売上相当分の在庫を残すのが昨対比並ということなのだが、流動資産に限って云えば絶対額で減っているのである。平たく云えば、値段を上げ、売上を上げ、在庫を下げるという夢のようなことをやってのけたのである。
さて、事業別に戻り、残りはグローバルブランド事業の▲30億円の営業赤字だが、こちらはユニクロ:Cがとってかわるか撤退する、あるいは、もっと驚くような買収をやってのけるのではないかと思う。そして、そのローエンドを世界で担うのが、ジーユーというわけだ。
最後に、フリーキャッシュフローだが、投資有価証券や定期預金の影響を除けば実質的に3600億円を超え投資余力も十分だ。キャッシュフローというのは、ある意味会社を存続させるのに最も重要な指標で、中小企業でいえば「資金繰り」に相当する。キャッシュフローは「お財布の中身」と思えば良い。キャッシュフローには営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローの3つがあり、営業キャッシュフローというのは事業活動で得られた利益が相当する。投資キャッシュフローというのは、投資に使った現金で、必ずリターンの計測をして営業キャッシュとなってもどってこなければならないが、日本のアパレル業界は、とくにデジタルについて投資キャッシュフローがいいかげんなところが多い。結果、原価償却費が増えて販管費を押し上げる。そして、借入が財務キャッシュフローで、借入を返済すると財務キャッシュフローがマイナスになる。営業で稼いで、投資で資金を使い、将来の営業キャッシュを期待しながら返済をする。そして、お財布にのこった自由に使えるお金がフリーキャッシュフローだ。つまり、稼いで使う。使い方がうまいから貯金が増える。これが、キャッシュフローである。
そして、最後に同社は「育った人材」について言及し、頑張った社員をねぎらった。なんとも憎い終わり方だ。あとは、私が再三申し上げている「優等生としての新しい勝ち方の定義」をみせてくれれば、個人的には全財産をBetしてもかまわないのだが。
*投資はあくまでも自己責任でお願いします
以上が、私の分析の全てである。書いてある数字をなぞるだけなら新聞でもみていただければよい。本稿は、可能な限り私の視点を入れたことを最後に念押ししておきたい。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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