デスティネーション・ストア成功させ1兆円めざすバローHDにいま学ぶべきこととは

阿部 幸治 (ダイヤモンド・チェーンストア編集長)
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花開くD・Sモデル

 「このタイプの店が出てきたら、うちも影響は免れないな。とくに鮮魚は厳しくなりそうだ」

 2023年春、関西地盤の有力小売業の幹部社員はこの日、2週間前にオープンしたバローの店内を歩きながら、こう警戒感を高めた。その日は平日の午後。青果売場トップでは旬のいちごを大きく展開、誰の目にも「今何を買うべきか」が明快であった。水産売場では対面プールをつくり、豊富な丸魚を販売。店員がひっきりなしにお客に声をかける様は圧巻で、店は多くのお客でにぎわっていた。

 バローホールディングス(岐阜県/小池孝幸社長、以下バローHD)傘下のSM企業バロー(岐阜県/森克幸社長)はこのように、専門性と目的来店性を高め、競合を飛び越えて来店してもらえる店づくりを行っている。「デスティネーション・ストア(D・S)」戦略である。

 さて、今から5~10年ほど前までのSMバローに対するイメージはどんなものだっただろうか。1個20円程度の激安価格で話題となったコロッケ、ナショナルブランド(NB)と比較して半値程度のプライベートブランド(PB)商品を筆頭に、価格が安いSMというイメージがあった。その一方で、生鮮の品質は普通で、整然と商品が並びきわめて効率的に運営された金太郎飴型の大型SMという印象。取り立てて「この店じゃないといけない」という強い魅力は、かつてはあまり感じなかったと記憶している。

 そのことはバローHDの業績ならびに、バローを中核とするSM事業の業績からも見て取れる。図表は、2013年3月期から23年3月期までの11期の業績を一覧にしたものだ(注・バローHDは2015年3月期まで社名はバロー)。

図表●バローHDの業績推移

 バローHDの営業収益は右肩上がりで成長しており、13年3月期の4312億円から23年3月期の7599億円へと76.2%も増加した。この間、SM事業の営業収益は、3053億円から4218億円で38%増にとどまっている。中小規模のSMを幾度となく買収しているにもかかわらずだ。この理由はSMバローの期末店舗数と既存店売上高推移をみるとわかりやすい。バローのSM店舗数は13年3月期179店~15年3月期232店まで急速に増えた一方で、その後店舗数はあまり増えていない。既存店売上高のマイナス成長が目立ったのはこの頃だ。

 これを受け、バローはSMの新規出店を減らし、店舗閉鎖を行いながら、17年3月期以降は店舗改装に注力してきた。これまで新規出店に集中投資してきた副作用として、弱まった既存店の稼ぐ力を取り戻すための施策であった。

 バローHDのSM事業の営業利益率についても、20年3月期まで4期連続で2%台となるなど課題は明らかだった。21年3月期以降、3~4%台に回復したのは、コロナショックに伴う内食需要の拡大もあるが、16年3月期以降継続的に続けてきたSMの収益性再構築にめどが立ち、「D・S」モデルが確立、多店舗化が進んだからだ。

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記事執筆者

阿部 幸治 / ダイヤモンド・チェーンストア編集長

マーケティング会社で商品リニューアルプランを担当後、現ダイヤモンド・リテイルメディア入社。2011年よりダイヤモンド・ホームセンター編集長。18年よりダイヤモンド・チェーンストア編集長(現任)。19年よりダイヤモンド・チェーンストアオンライン編集長を兼務。マーケティング、海外情報、業態別の戦略等に精通。座右の銘は「初めて見た小売店は、取材依頼する」。マサチューセッツ州立大学経営管理修士(MBA)。趣味はNBA鑑賞と筋トレ

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