ホームファニシング大手のニトリホールディングス(北海道/白井俊之社長)の事業会社であるニトリ(同/武田政則社長)が近年、家電の取り扱いを拡充している。以前はシングル向けの小型家電を中心に販売していたが、徐々にカテゴリーを拡大。ファミリー層を対象とした大型家電の取り扱いを増やし、売場面積も広げていくなど家電領域に注力している。家具業界の覇者ともいえるニトリは、家電業界でも存在感を高められるのだろうか。
ニトリ、OEMで価格訴求型のPB家電を販売
ニトリは2009年度から小型家電の取り扱いを開始した。当初は「ついで買い」をねらった販売だったが、徐々に商品カテゴリーやラインナップを拡充し、現在は各店でコーナーを確立するまでに至っている。
近年では従来のシングル向けに加えて、ファミリータイプの大型タイプの家電も投入している。9kg型の洗濯機や300L超の冷蔵庫、65v型の4Kテレビ、14畳タイプのエアコンなどがその代表例といえるだろう。ニトリは家電売上高を公表していないが、月次売上速報のコメントから推測すると、家電領域の業績は順調に伸長しているように見受けられる。
ニトリが販売する家電はプライベートブランド(PB)で、製造にはOEM(Original Equipment Manufacturer)を採用している。OEMとはメーカーが他社ブランドの製品を製造することを指し、ニトリは家電メーカーに委託して製造した商品を自社のPBとして販売している。ちなみにヤマダデンキ(群馬県)やビックカメラ(東京都)などのPBも同じ仕組みだ。ニトリがOEMを依頼する家電メーカーは国内企業に限らず中国などの海外メーカーもあり、たとえばエアコンやテレビはHisense(中国)が製造している。
PBはリーズナブルな価格設定が可能になるが、そうなるとどうしても「安かろう悪かろう」のイメージがつく。実際にニトリの家電を見てみると、ハイスペックでも多機能でもない。だが、万人が家電に高機能や多機能を求めているわけではないのも事実だ。
家電で販売ボリュームが大きい商品ゾーンは、高付加価値型ではなく、高機能でも多機能でもないが必要な機能は搭載している「普及タイプ」のゾーンなのだ。ニトリの家電は、まさにこのタイプに当てはまる。
「ニトリ家電」のさまざまな課題
ニトリの家電は売上好調な一方で、さらなる成長のためにはいくつかの課題も散見される。
まずは、購入後の商品の配送・設置が有料オプションになる点が挙げられる。他社では、たとえばヤマダデンキのPBモデルである6kg型洗濯機は配送・設置が無料となっているが、ニトリの6kg型洗濯機は別途7150~8250円がかかり、トータル金額では思いのほか高くなってしまう。
次に、他社では指定機種であればメーカー保証期間を過ぎたあとも延長保証が無料でついてくるが、ニトリは基本的に有料となる点だ。
また、商品のラインナップがまだまだ足りない点もある。家電市場は買い替えニーズによって支えられているのが実情で、買い替えの理由は転居や故障、経年劣化、ライフステージの変化などさまざまだ。一般的な傾向としては、前機種よりも機能やスペックがアップしたモデルを選ぶ。とくに結婚や出産などでライフステージが変わると家電に求める機能やスペックも変わってくる。消費者のライフステージの変化に合わせて買い替え需要に対応するためには、幅広いラインナップが必要となる。
資本業務提携したエディオンとのコラボはいかに?
このような課題解決に向けて追い風になりうるのが、エディオン(大阪府)との資本業務提携だ。ニトリホールディングスは22年4月にエディオンの株式を10%取得し、提携を開始した。
それ以降、エディオンは22年10月から「エディオン倉敷本店」(岡山県)内にニトリとのコラボブースを開設し、同年11月からは家具、23年1月からは一人暮らしの新生活に必要なシングルベッドやマットレスのほかローボードなどを揃えた「インテリアパック」を販売している。さらにエディオンのECサイトにニトリ公式通販「ニトリネット」のバナーを貼るなど、協業を意識した取り組みを進めている。
エディオンとの協業による販路拡大は、スケールメリットとしてコストの低減効果が期待できる。さらにエディオンの有する物流サービスやリユース・リサイクル事業も、配送コスト削減や資源の有効活用につながる可能性がある。
現時点では、ニトリはエディオンに対して家具のみの供給を行っているが、前述のスケールメリットや相乗効果などを考えると、さほど遠くはない未来に両社の共同企画による家電が誕生してもなんら不思議ではない。
家電市場全体を見ると、まだニトリの存在感は決して大きいわけではない。しかし、エディオンという協業パートナーを得た意味は大きい。今後、ニトリが家電で存在感を示せるかどうかは、エディオンとのパートナーシップをどこまで強固にしていくかである。両社の動きを引き続き注視していくべきだろう。