商品、トレンド、キャッシュ アパレルビジネスが今3つの回転率に着目すべき理由
私は前回、キャッシュ・コンバージョン・サイクルの重要性を説いた。アパレル企業が商社外しを行えば行うほどキャッシュフローが悪化し、最悪の場合はP/L(損益計算書)は良化しても、企業は資金ショートに陥り倒産することもあり得ると書いた。
一方私は過去の論考で、①「交差比率」(商品回転率 x 商品粗利率)は過去の指標であり、現在では通用しないこと、また誰もが疑うことなく受け入れている、②「商品回転率やリードタイムを短くすることが良いことだ」とする主張は誤りであると述べている。
ここに、矛盾があるのではないかという質問が数多くよせられた。そこで今回はトレンド・ターンオーバー、商品ターンオーバー、キャッシュのターンオーバーの3つの回転率が昨今の複雑化したビジネスモデルでどのように基準や見るべきポイントが変化したかについて解説したい。
トレンド・ターンオーバーとは何か
トレンド・ターンオーバーとはトレンドが年に何回回転するかを表すもので、古き良き時代、SS (春夏)、FW (秋冬)という具合に、シーズンは4つだった。したがって、1シーズンの期間は3ヶ月。初期投入に時間をかけ、シーズンはじめに商品投入をしつつも、期中に追加生産が2回できた(発注から納品まで約1ヶ月かかると想定)ためQR(クイックレスポンス)が機能していたわけだ。しかし、考えてもらいたい。例えば、「夏」と一括りにいうが、ボカボカとした初夏と、ミンミンゼミがなく盛夏、そして、残暑がのこる晩夏では、全くシーズンが違っている。
そこで考案されたのが「8カセットMD」だ。これは、4つのシーズンを8つに分け、MDを細かくしたものだ。しかし、さらに考えてみれば、当時トレンドに大きな影響を与えていたファッション雑誌は毎月、年に12回発刊されていたので、実際のトレンド・ターンオーバーは年に12回ということになる。
その後、雑誌が売れなくなり、女子達の多くはインスタで、脳内共鳴するグラマー(インスタで人気のある人) のライフスタイルを追いかけるようになり、シーズンはさらに細分化された。今では、ファッショントレンドは毎週のように変わり、はや追加生産などでは追いつかず、売り切り御免型MDとVMD (商品の見せ方)の連携によって、週次で変化を店頭やウェブで見せる企業が勝っている。
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