商品、トレンド、キャッシュ アパレルビジネスが今3つの回転率に着目すべき理由

河合 拓
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商品ターン・オーバーとは

Danilin/istock
Danilin/istock

商品回転率を高めよ、という主張の裏には「キャッシュフローの安定化」と「移り変わるトレンドの変化」に乗り遅れないための柔軟性を持たせよ、という両方の意味合いが混在し、その違いを誰も正確に使い分けていない。デジタルベンダー達は、判を押したように「リードタイムを短くせよ」というが、この考えはすでに時代遅れとなっている。計画生産によって、毎月、毎週のように新製品を出し「欠品」を追いかけないZARAMDの隆盛によって、日本企業のその場対応の「作り増し」はシーズン遅れとなることは述べた通りだ。

ZARAは世界中に張り巡らせたネットワークから、そのシーズンに売れる商品を、あらかじめ備蓄した素材や生産ラインを活用して計画生産する。そして欠品を追いかけず、次から次へと新しい商品を計画生産に従って投入する。これに対して、従来型QR MDを採用している日本企業は、欠品を追いかければ追いかけるほどシーズン遅れとなり余剰在庫となる。

Sheinの商品ターンオーバーに関する識者たちの誤解

ちなみに、日本では有識者と称する人達でさえ、「中国 Shein(シーイン)の秘密」と称し、Shein2-3日で商品生産できる」などと書いているがこれは物理的に不可能だ。例えば、ニットであれば、リンキングという工程は16ゲージという、極めて細かい編み目に手作業で糸の縫い目を通すのだが、ここが最大のボトルネックになる。1兆円企業が販売するだけの量の生産を2〜3日でできる工場など世界には存在しない。この工程を自動化するのがホールガーメント(縫い目のできない編み方)だが、Sheinの商品にはホールガーメントも存在しない。さらに、布帛であればパターン作成が必要で、3D CADも現実的には使い物にならないから、サンプルも作成せずいきなり量産品をつくるなどあるはずがない。ものづくりの現場を知っている人であれば、2-3日などという非現実的なことは言わないだろう。あるとしたら、完成品に多少のリボンやPC dyed (製品染め)ぐらいだろう。

私は、中国アパレル企業の友人に、Sheinについて調査依頼した。彼は、「Sheinの秘密を実際にお見せしましょう」と言い、Sheinのウエブに掲載されている商品画像を、中国製スマホのAI画像検知で撮影した。すると、同一商品がタオバオをはじめ、あちこちのウエブサイトで掲載されているのだ。

つまりSheinは、工場で余った残反や余った商品が、ブランドネームを変え、あちこちでて販売されている「売場の一つ」なのだ。余った商品の中から売れ筋をピックアップして販売しているから膨大なSKUも可能なのである。フタを開ければ、極めて単純な仕組みだ。つまり、2~3日の生産をMDの中心軸に置くことなど不可能なのである。

仮にSPA(製造小売業)が、トレンド・ターンオーバーに商品ターン・オーバーを同期させるためにはZARAのやり方が最も合理的で、あらかじめ備蓄した素材と確保した生産ラインで、世界から集まるソフトの情報を収集し、順序立てて細かく商品投入すれば良い。これが商品ターン・オーバーで、後述するキャッシュターン・オーバーとは異なっている。

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