第34回 ウィズコロナ時代に「モノからコトへ」を信じてはいけない理由
なぜ店頭でモノが売れなくなったのか
では何故店頭でモノが売れなくなったのか。それは、①必要なものが無い(不要不急)、②欲しいものが無い(魅力の欠乏)、③無理に買わされる(販促、接客)、④他でも買える(買う場所の増加)、⑤だから店がつまらない(落胆の連続)の5つに収斂される。
店頭に「New arrival」「新着」「店長のおすすめ」「今年の色」「今、一番売れています」と言ったPOPが並ぶ。これは人の気持ちを煽り、購買欲を喚起する。以前なら流行に遅れることや知らないことに劣等感を覚えた。
しかし、ネット社会ではそれほど情報格差は無く、そもそもそういった劣等感を気にする時代でも無い。ところが店頭では昔と変わらぬワードが並び、接客と言う「売り込む(売りつける)」作業を繰り返す。これでは店舗がつまらなくなる。もちろん、ショップスタッフとのやり取りを楽しむお客はいる。それは否定しない。でも、現に売上が落ちているのだから答えは明らかだろう。
車の販売も同様である。定期的にマイナーチェンジを行い、数年に一度、フルモデルチェンジを行う。この活動は需要を喚起するためだが、消費者に時代遅れを感じさせることで消費を煽るマーケティングは時代遅れになりつつある。
人はなぜモノを買うのか 「モノからコトへ」を疑え
人がモノを買うのは「買う理由があるから」に他ならない。買う理由が無ければ買わない。当たり前の話だが、これが分かっていないと「モノからコトへ」を頭から信じてしまう。
雨に濡れないために傘を買う、感染回避のためにマスクを買う、冬暖かく過ごすためにUNIQLOでヒートテックを買う、若々しくなるために老化防止の乳液を買う、家族でキャンプに行くからテントを買う、ステイホームで料理をするからニトリでキッチン雑貨を買う、正月におせちを買い節分で恵方巻きを買い土用の丑の日にウナギを買う、バカンスに行くから水着を買う、孫が小学校に行くからランドセルを買う……
どうだろう、全て理由が無いだろうか。モノは全てコトの先にある。ゴルフをやるからクラブを買うし、ジョギングするからランニングシューズを買う。このロジックを理解していないと「経験消費」「体験消費」「トキ消費」と流行の言葉に惑わされ、いきなりワークショップのイベントを始めることになる。ワークショップのイベントが悪いと言っている訳では無く、「モノが売れない」とはなから思い込んでいないか確認して欲しい。
国民の高齢化が進み、相対的な物欲の低下は免れないであろう。でも、年を取っても消費がなくなることはない。
市場は変わっているのに、相変わらず前年主義、売上主義によって「売らんがため」の活動に店頭は終始していないだろうか。消費者の劣等感や焦燥感を煽った売り方を続けていないか。本当にお客が望んでいるもの、お客が取り組んでいること、抱えている課題、それらを把握しているだろうか。この先も「New arrival」「新着」「店長のおすすめ」「今年の色」を続けていくのだろうか。
ポストコロナ、行動自粛によって家計に滞留したお金で一時のリベンジ消費に沸くだろう。でも、それも一過性だ。今後、人口は減り、年金生活者が増え、ますます消費行動は慎重になる。その時、誰を相手にその人の持つ課題を解決していくのだろうか。少なくともそれは「今年のコーデ」ではないだろう。
西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒
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