ファミマが放出時、PPIHによる809億円自社株買いが二重の意味で「もったいなかった」理由
自社株買いがもったいない理由
筆者の考えを列挙します。
- 成長原資をみすみす特定株主に還元する必然性が乏しいこと
- 売り出しを行いファミリーマートに変わる新たな株主を積極的に探し株主層の拡充を図るべきであったこと
- そのために、ポスト・コロナ禍を見据えて成長戦略を更新し、広く周知徹底すべきだったこと
- 自社株買いを正当化するほど株価が低迷しているとは考えにくいこと(そもそも自社株買いは株価が一株あたり純資産を下回るときに実施することが明示されている)
まとめると、今回PPIHは、投資家と成長戦略について共通の理解を深め株主層の拡充を図る機会を見送り、本来成長原資に回すべき資金を自社株買いに充当した、二重の意味でもったいない決定をしたと筆者は思います。
PPIHに今から期待すること
自社株買い発表後、PPIHの株価は下落しました。当然の推移だったと思います。
幸い9月末に香港での回転寿司事業開始を手がかりに株価は反発しています。
ただし、この流れを定着させるには、ディスカウントストア事業の強化について詳細なプランを提示すべきだと思います。いずれ人の流れが戻り、インバウンドも回復すると思いますが、待ちの姿勢は同社らしくありませんし、しかも消費の動きはコロナ前には戻らないというのが筆者の見立てです。一方、銀行を初めリアル店舗削減の動きが活発化しており、PPIHにとっては出店余地が増えていると考えます。
そこでぜひディスカウントストア事業で今後を見据えた店舗のスクラップ&ビルドを一気に進めていち早く既存店売上を回復させて欲しいと思います。あるいは、個店経営を改めて深堀りし、店舗ごとにもっと大胆に商品構成に濃淡をつけるのが良いのかもしれません。
ファミリーマートは残りの保有株も一年以内に現金化してくると筆者は予想します。その時はぜひ自社株買いではなく、成長期待を高めて売出しをしてくれるものと筆者は考えています。
「資金はできる限り成長に振り向ける」ーこれがPPIH株主のマジョリティの総意ではないでしょうか。
今こそ、PPIHの変化対応力を誇示する絶好の機会が来ています。
プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師
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