いまAmazonが百貨店をつくる意味 リアル店舗の役割の変化と壮大な実験とは?
アマゾン、リアル店舗展開による壮大な実験とは?
その壮大な実験について解説し、現実解を求める手法と、空想世界で言葉遊びに興じる我が国の手法の違いを解説しよう。
例えば、既に飽和したといわれるコンビニエンスストア(コンビニ)市場だが、考えてみればAmazonでポチれば、当日、あるいは、翌日には自宅に持ってきてくれる究極のサービスがありながら、なぜ、コンビニというリアル店舗業態が共存しうるのかみなさんは即答できるか?Amazonや楽天などのECが進める究極のサービス・利便性に最も影響を受けるのは、本来、利便性を売り物にするコンビニであるはずだ。消費者の経済合理性を「乾いた左脳」でみれば、物流費もかからず自宅まで持ってきてくれるAmazonや楽天を使う方がよほどよい。しかし、両者は共存している。そこには、理屈だけで説明できないウエットな人間の行動心理が深く関係していると見るべきだ(もちろん物理的な時間・距離がコンビニの方が早く、近いということもある)。ならば、コンビニに空中戦で戦いを挑むより、Amazonらしいコンビニ業態を出店する方が理にかなっている。それが、無人店舗のAmazon Goだ。しかし、Amazon Goは2016年に実験店舗を出した後、2000店舗まで拡大すると噂されるも、現在まで全く拡大していない。
さらに、生鮮食品を売り物にする食品スーパー市場においても壮大な実験は繰り返されている。Amazonフレッシュでは「最短2時間で配達」と書かれているが、これは「最短」であって、実際、近所のネットスーパーの方が利便性は高いことに解説は不要だろう。日本の生鮮食品スーパーは「家庭の冷蔵庫」と言われるほど日本人の食文化に根ざし、多くの主婦が毎日フレッシュな食材を買いにゆく。最近では、女性の社会進出に伴う「お一人様需要」が増え、コンビニやネットスーパーの小分け宅配がこの領域に攻め入っており、いびつな流通構造を持つ日本の食材サプライチェーンを完全デジタル化することに困難さを感じているように思う。
こうした壮大な実験は、あらゆる地上戦業態に対し行われている。こうした文脈の中でAmazon百貨店を捉えればその本質が見えてくる。例えば、ラグジュアリー商品を安心して買うことができる場はリアル店舗の方がよい。EC業態のテナントが持ちうる怪しさ(2019年度日経クロスメディア調査によれば、Amazon利用者の40%が同社のサービスに不満を持っている)に対する大きな差別化となり得る可能性がある。このAmazon百貨店業態は、どのような業態となるか興味は尽きないが、こうした実証実験(Proof of Concept, POC)を、あらゆる可能性をゼロベースで考え直し、スクラップアンドビルドを繰り返しているというのが私の見方だ。
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