いまAmazonが百貨店をつくる意味 リアル店舗の役割の変化と壮大な実験とは?

河合 拓
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ECによるデジタル化の先にある
リアル店舗の意味合いの変化

前回、たった10年で売上1兆円を超える躍進を果たしたシーインのビジネスモデルを解説し、そのビジネスモデルを抽象化し、むしろ、その恐竜の卵は日本に山のように存在すると分析した。これに対し、最も多い質問は「それではリアル店舗はどうなるのか」というものだった。私は、原理原則を単純化して分かりやすく解説しただけで、リアル店舗が不要だとは一言も言っていない。リアル店舗は役割を変え、数を縮小してしっかり残ってゆくだろう。実際、私が紹介したD2Cは、EC主体ではあるが、わずかだが、フラッグシップと呼ばれるリアル店舗を持っている。 

今、先進国で高騰した土地代を払い、高額な流通コストを払って一点単価約3000円の衣料品を売っても利益はほとんどでない。一度、自分でExcelを使い、細かなシミュレーションを自らの手を使ってやってみることだ。日本企業がたどってきたデジタル化の歴史を壮大な実験と比較しよう。

日本の流通・小売業のデジタル化の歴史は「言葉の歴史」

日本のアパレル・リテーラーは、古くは「クリック&モルタル」(レンガでできたリアル店舗というブリック&モルタルに韻を踏み、Brick=レンガをCrick=クリックに変え、リアル店舗とウエブの両方のチャネルを持つリテーラーになぞらえた造語)から、「O2O」 (オフライン to オンライン。リアル店舗からウエブへお客様を誘導する手法)。

次に、マルチチャネルから「オムニチャネル」(それぞれのチャネルが独立した事業を行うのでなくシームレスにする手法)、最近では、OMO (Online merges offline オンラインとオフラインの融合)という具合に「言葉」が変わっているだけで、なんら本質的変化が起きているように思えない。

私は、コンサルティングファームに20年勤めた経験から、こうした言葉の分類学を誰より先んじてたたき込まれた人間の一人だが、実際のところ、繰り返されるバズワードの流れに本質的な意味合いを感じなかった。Amazonや楽天など、デジタルECリテーラーは、言い方はよくないが、新型コロナウイルスによる巣ごもり消費の追い風に乗り、あらゆるリアル店舗の可能性の「実験」を通し、リアル店舗の価値をゼロから作り上げる「ゼロからの足し算」戦略を進めていると私は見ている。

これに対し、すでに過剰なコストと店舗数を持つ日本企業は「引き算」が苦手で、負の遺産を引きずった資産の上に「足し算」での乗り切り方を考えているように見える。ゼロから必要十分な機能だけを足してゆく足し算と、負の遺産の上積みをする足し算では、同じ足し算でも出てくる答えは違ってくる。

 

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