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伝統的マーケティングは企業を窮地へ 「個客」追いかける「Digital-MD」の全貌を解説

本連載では幾度となく、日本のアパレルの多くが盲信している30年前のQR(Quick Response)を前提としたマーチャンダイジング(MD)業務は古いばかりでなく、ZARAなどの「12トレンド・ターンオーバーMD」によって、競合アパレルが商品回転率を上げれば上げるほど蟻地獄に陥り余剰在庫と化すメカニズムを解説してきた。それでも、彼らはQRを止めようとしない。なぜか?ここに、アパレル業界の最大の欠点である、競合を見ていないという悲しき性があるからである。彼らは言う。「売れているモノを店頭において、売れないモノをおかない。それ以上何があるのか」と。今回はデジタル時代のマーチャンダイジングについて解説したいと思う。

JaysonPhotography / istock

ブランドと呼ぶのは企業だけ 消費者からみたらただの「分類」

 冒頭のようないまだQRを妄信する人々は、しっかり本稿を読み理解してもらいたい

 当たり前の如く語る「売れているモノを店頭において、売れないモノをおかない。それ以上何があるのか」という主張も、ユニクロやその他の競合が、その似寄り商品か高いコスパの商品を、あなたのブランドとかわらぬデザインで出したらどうなるか、という単純な問いの前では何の説得力も持ち得ない。自分のブランドでしか消費者が買わないと思っているのは本人達だけだ。今の消費者は、スマホを使ってありとあらゆるブランドを同列比較し、もっともコスパがよいものを選ぶ。必要とあれば、ポチれば海外から買い付けしてくれるサービスさえある。「ブランド」などと呼んでいるのは本人達だけで、世界市場で顧客ロイヤルティの低いものは「ブランド」とはいわない。単なる「分類名」である。

 前号をもう一度見直してもらいたい。伊藤忠商事などが開発した、AI を使った将来のトレンド予測を組み合わせれば、素材と半製品、および、工場ラインをあらかじめ確保することで、生産の安定化とトレンド追随の両方が可能、商品回転率は悪くなるが、トレンド・ターンオーバーは12回転でも24回転でもできることを説明した。

 論理的に考えれば理解できるはずなのだが、このメカニズムを分かっている方は何人いるのだろうか。いまだに、デジタルベンダーが「リードタイムが短くなって売上が上がりますよ」という根拠のない営業トークを聞くたび、この業界の暗い行く末を案じざるを得ない。

 

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マーチャンダイジングは石器時代の言葉

 さて、本日は、デジタル化が進んだ先、それも、この2-3年で起きるMD業務の根本変化について語りたい。

 そもそも「マーチャンダイジング」という言葉は、「商品」という意味だ。つまり、MD計画というのは「商品計画」なのである。過去の商品の売れ行きの趨勢を指数化し、52週に分解して売上のアップダウンと売価の関係を分析する。こうした一連の分析作業によって、将来も同じような動きをするだろう、という仮定の下、さらに、そこに積極的なプロモーション施策 (プレミアム要因)、あるいは、消費増税(ディスカウント要因)などを加えて微調整する。賢明なマーチャンダイザーであれば、街を見、店を見、そして、顧客の動きや装いを見ながら商品計画を立てOTB (仕入枠設定)を設計する。複雑に組織分化された企業内部では、OTB計画がなければ調達部が勝手に必要以上の商品を“計画通り”おこなってしまい、余剰在庫となるからだ。余剰在庫を生み出すメカニズムである。

 ここで賢明な読者は気がついたと思うが、こうした一連のMD計画には「顧客」という概念が全く無いのである。今、ネットにしてもリアル店舗にしても、顧客の動きや導線は手に取るように分かり、”個客“(一人ひとりの顧客)の購買動向もビッグデータアナリティクスという技術を使って企業のデータベースに中にあり、分析することが可能なのに、MD計画時には、こうした“個客”データは商品計画とリンクしていない。むしろ、旧来型のMD業務で調達した後に、受け入れた商品をどのように売るか、というところにビッグデータは活用される。本来、そもそも、どの程度仕入れるべきかという根本のところにこそビッグデータは使うべきなのだ。

 化石時代のMD業務は、まず計画を立て商品調達を行いセンター倉庫に投入。顧客データを活用しながらセールスフォースなどのソリューションを使って、メルマガやクーポンを送る、あるいは、購買時にリコメンドする程度である。私が過去から再三述べているように、SPA(製造小売業)という言葉が日本を席巻し、それぞれの企業が勝手にその意味を解釈し、自分たちはSPAであるとうそぶいているが、その実態は、製販は依然分離したままであるというのが実態だ。

 

デジタル時代のマーチャンダイジングはAIが行う

JohnDWilliams / istock

 私は、RFIDの普及による「絶対単品」管理と、ビッグデータアナリティクスによる「絶対個人」の組み合わせによって、「マーケティング」という概念は、ことMD業務については近い将来消滅すると述べた。もちろん、初期的なブランドの立ちあげには必要だろう。しかし、少なくともオペレーションに入った段階では、マーケティングなどというざっくりしたつかみ方でなく、「絶対個人」を追いかける時代が来る。

 すでに企業が貯めたビッグデータにより、「絶対個人」の購買履歴や指向特性まで分析できるようになった今、マーケティングという概念が消滅するのは必然なのだ。それより、むしろ、自社が持つハウスカードに記録された、消費者の動態的購買行動履歴を分析し、「絶対個人」が仮に10万人いるとしたら、なぜ商品調達に生かさないのか、ダイレクトにリンクさせないのかということなのである。過去の趨勢より、個人10万人の動きを瞬時に分析し、個客から調達計画を立てることは技術的には十分可能だろう。例えば、ビッグデータアナリティクスを使えば、会員顧客の60%はデッドになっており40%がアクティブ。さらに、その中の5%がロイヤルカスタマーで、という具合に、「アクティブな絶対顧客」の購買特性から顧客を分類し、顧客のロイヤルティに従って、商品や買いまわり商品の投入計画を予想する方が、過去履歴の延長から将来予測する短絡的ロジックより理にかなっている。

 このように、MD業務という過去のオペレーションを思い切り変え、顧客と商品の関係からAI を活用し、顧客の動きから商品投入計画を予想するわけだ。例えば、私はある百貨店の仕事をしたとき、高級靴を買う顧客はワインを買う確率が非常に高いという相関性を見つけたことがある。しかし、その百貨店は衣料品の部門と食品の部門は別々に調達を行っていたため、それぞれの商品が売れる市場(個客集団)がどの程度いるのか知ろうとさえしていなかった。本来、高級靴の購買履歴がある顧客が、データベースに何名いるのか、そして、彼らに対して店頭で、そしてウェブでワインをレコメンドすればよい。このような動態的オペレーションをAI を使って解析し、シーズン毎の商品調達契約に繋げてゆくわけだ。

 これからの時代は、「顧客データ」の活用に企業の生死がかかってくる。なぜなら、もはや日本は人口減少とC2C (消費者同士の二次流通品の売買)の隆盛、そして、なによりコロナ禍による大失業時代の到来と、アフターコロナの時代における貨幣乱発のつけである超増税、株価暴落、金利上昇という三重苦が待ち受けているからである。

日本人は、もはや着飾って外に出る余裕などなく、生きてゆくだけで精一杯になるだろう。世界に出れば分かるが、一般人は極めて質素な装いをしており、一般人が、モデルが如く着飾って外に出かけていたのは、韓国か日本ぐらいだった。こうした時代、バブル期、国民が浮かれていた時代に、今のビジネスモデルの原型をつくったアパレル企業は、自社のビジネスモデルをゼロスクラップする覚悟がなければ一網打尽となる可能性が高い。

 MDなどはその最たるもので、企業を最も苦しめている余剰在庫の原因となっている業務なのに、的外れなテクノロジー活用しか思いつかないのは、業務人員、デジタル人員の双方がアパレル業務を理解していないからだ。私が提唱するDigital-MDは、まさに業務とデジタルのコラボレーションであり論理的矛盾はない。余剰在庫はなくなりはしないが、精度は高くなり劇的に減るはずだ。

 MD精度を上げるためには、顧客データベースと商品データベースをつなぐことだ。今の技術を使えば、”個客” 一人ひとりの動きから購買履歴、そして、こうした情報から得られる将来の購買動向まで瞬時に分析することができるようになる。デジタル化が叫ばれて時が経つが、未だに、古いビジネスモデルを前提にデジタルをのせてお茶を濁してるだけのように思う。

 今求められているのは、オペレーションができる人材ではない。上記のように、ホワイトペーパーに大きな未来図が書けるデジタル戦略人材こそ、アパレル産業が求めている解法なのだ。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)