伝統的マーケティングは企業を窮地へ 「個客」追いかける「Digital-MD」の全貌を解説
デジタル時代のマーチャンダイジングはAIが行う
私は、RFIDの普及による「絶対単品」管理と、ビッグデータアナリティクスによる「絶対個人」の組み合わせによって、「マーケティング」という概念は、ことMD業務については近い将来消滅すると述べた。もちろん、初期的なブランドの立ちあげには必要だろう。しかし、少なくともオペレーションに入った段階では、マーケティングなどというざっくりしたつかみ方でなく、「絶対個人」を追いかける時代が来る。
すでに企業が貯めたビッグデータにより、「絶対個人」の購買履歴や指向特性まで分析できるようになった今、マーケティングという概念が消滅するのは必然なのだ。それより、むしろ、自社が持つハウスカードに記録された、消費者の動態的購買行動履歴を分析し、「絶対個人」が仮に10万人いるとしたら、なぜ商品調達に生かさないのか、ダイレクトにリンクさせないのかということなのである。過去の趨勢より、個人10万人の動きを瞬時に分析し、個客から調達計画を立てることは技術的には十分可能だろう。例えば、ビッグデータアナリティクスを使えば、会員顧客の60%はデッドになっており40%がアクティブ。さらに、その中の5%がロイヤルカスタマーで、という具合に、「アクティブな絶対顧客」の購買特性から顧客を分類し、
このように、MD業務という過去のオペレーションを思い切り変え、顧客と商品の関係からAI を活用し、顧客の動きから商品投入計画を予想するわけだ。例えば、私はある百貨店の仕事をしたとき、高級靴を買う顧客はワインを買う確率が非常に高いという相関性を見つけたことがある。しかし、その百貨店は衣料品の部門と食品の部門は別々に調達を行っていたため、それぞれの商品が売れる市場(個客集団)がどの程度いるのか知ろうとさえしていなかった。本来、高級靴の購買履歴がある顧客が、データベースに何名いるのか、そして、彼らに対して店頭で、そしてウェブでワインをレコメンドすればよい。このような動態的オペレーションをAI を使って解析し、シーズン毎の商品調達契約に繋げてゆくわけだ。
これからの時代は、「顧客データ」の活用に企業の生死がかかってくる。なぜなら、もはや日本は人口減少とC2C (消費者同士の二次流通品の売買)の隆盛、そして、なによりコロナ禍による大失業時代の到来と、アフターコロナの時代における貨幣乱発のつけである超増税、株価暴落、金利上昇という三重苦が待ち受けているからである。
日本人は、もはや着飾って外に出る余裕などなく、生きてゆくだけで精一杯になるだろう。世界に出れば分かるが、一般人は極めて質素な装いをしており、一般人が、モデルが如く着飾って外に出かけていたのは、韓国か日本ぐらいだった。こうした時代、バブル期、国民が浮かれていた時代に、今のビジネスモデルの原型をつくったアパレル企業は、自社のビジネスモデルをゼロスクラップする覚悟がなければ一網打尽となる可能性が高い。
MDなどはその最たるもので、企業を最も苦しめている余剰在庫の原因となっている業務なのに、的外れなテクノロジー活用しか思いつかないのは、業務人員、デジタル人員の双方がアパレル業務を理解していないからだ。私が提唱するDigital-MDは、まさに業務とデジタルのコラボレーションであり論理的矛盾はない。余剰在庫はなくなりはしないが、精度は高くなり劇的に減るはずだ。
MD精度を上げるためには、顧客データベースと商品データベースをつなぐことだ。今の技術を使えば、”個客” 一人ひとりの動きから購買履歴、そして、こうした情報から得られる将来の購買動向まで瞬時に分析することができるようになる。デジタル化が叫ばれて時が経つが、未だに、古いビジネスモデルを前提にデジタルをのせてお茶を濁してるだけのように思う。
今求められているのは、オペレーションができる人材ではない。上記のように、ホワイトペーパーに大きな未来図が書けるデジタル戦略人材こそ、アパレル産業が求めている解法なのだ。
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プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)
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