人類未体験ゾーン突入!ユニクロ以外アパレル全滅の時代 生き残るためのサステナブル経営の本質
必要以上の過剰生産が人類を危機に
アパレル業界においても、人が必要としている量を遙かに超える過剰生産は止まるところを知らず、値引きし、赤字を出してでも消費者に購買誘因させているわけだが、こうした行為は恐ろしい状況を生み出した。過剰生産が人類を危機に陥れ始めたのである。
二酸化炭素排出による地球温暖化、あるいは資源の枯渇などである。合繊繊維はほぼ全てが、限りある石油が原料だし、セルロース系再生繊維は森林伐採によって生産される。それ以上に深刻なのは、毎年焼却される「売れ残り商品」の問題だ。
このように、人類の存在そのものが、そして、経済活動そのものが地球と共生することに相反するわけだ。今、私たちができることは、世の中に溢れる、掃いて捨てるほどのゴミ、大量生産を辞め、本当に人類が必要としているものだけを生産し消費することである。「自然と共生する」などというレトリックにごまかされることなく、可能な限り経済活動を合理化し自然破壊を遅らせる、というのが正しい解釈だろう。
サステナブル経営には「哲学」が必要な理由
アパレル・ビジネスでは、3R、つまりReduce (減らす)、Recycle (再活用する)、Reuse (再使用する)、がヒントになるだろう。サステナブル経営とは、かくも哲学的な思想が根底になければならないわけだ。
優秀な理系人材が国の競争力を決めると言われるが、私は極めて危険だと思う。合理化の先にある人間の幸福、そして、「経済発展の次にくる私たちの幸福とはなにか」という根源的な問いかけにアパレル企業は答える必要がある。そして、こうした社会における「人類の新しい生活様式」を、いかにアパレル企業が提案できるかに因るのである。
日本人が着飾り、分割払いをしてまで服を買ってきた時にすでに、ファーストリテイリングの柳井正氏は「ブランドとは虚像であり、服は部品である」という自らの考えを述べ、今日の時代を予見した。ユニクロが世界的ブランドになったのも、こうした思想が根底にあったからだ。市場が大きな変曲点を向かえるとき、私たちは街、そして人を観察し、彼ら、彼女らがどのような「スタイル」やニーズを持ち始めるのかという企業なりの思想が大事なのである。
セレクトショップが日本で広がったとき、その先には米国がいた。無印良品が世界に認められた背景には、ギラギラに着飾った外見のアンチテーゼとして、洗練された素材感とシンプルな色の組み合わせがあった。そして、マルキュー文化が渋谷を席巻したときも、フェイクデリック(現バロックジャパン・リミテッド)創業者達は米国での女性の社会進出をみて、日本の将来の生活様式を見た。このように、今企業に必要なのは、この「モノあまりの時代」に、人はどのような生活様式をおくり、その中に服がどのように登場するのか、ということを企業ごとに考える、まさに「哲学」なのである。
これが、私の考えるサステナブル経営である。
抽象的すぎて、具体論が提示されていないと感じる方は、サステナブル経営のハウツー(How to)本を読めば良い。私は、もっと本質的な読者のために本稿を書いている。ただし、それでもHow toを求めている方に警告をしておこう。
How toは、ものごとの因果関係が見えなくなり、単に現象だけを追いかけるオペレーションだけの世界に我々を誘うだろう。そして、見えない世の中で「敵は誰だ」と探し回り、隣国に責任転嫁する。各国で右翼主義、自国ファーストが台頭してくるのはこのためなのだ。今、私たちは功利主義に毒され、新しい世界の「正義」が見えなくなっている。
たかが服、されど服だ。幸福は学者やコンサルタントの小難しい理屈で解決されるものではない。政府が行っているMade in Japanの世界化はことごとく失敗しているが、例えば、日韓の親密さを強化しているのは、NisiUやBTS、Netflixのドラマなどのサブカルチャーではないか。海外に行けば、UNIQLO、MUJI、Ajinomotoだ。衣料品に従事している人達は、もっとプライドを持ち、オペレーション偏重主義から骨太な哲学からくるブランド化に力を入れるべきである。ブランド化についての詳しい手引きは、拙著「ブランドで競争する技術」に克明に記している。興味のある方はぜひ手に取って欲しい。
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プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)