「+J」の驚異 ユニクロが企む「ファッション領域」獲得戦略
価格との相関が低い!ユニクロは、
「機能価値」から「イメージ価値」へ移行
ユニクロは、拙著「ブランドで競争する技術」(ダイヤモンド社刊)で分析した際、「機能価値」の訴求というポジションにあった。今回「+J」では、ブランドという「イメージ価値」へ移行したことを意味している。また、それは、「インナーでは負けるがアウターでは負けないよ」と高をくくってきた日本のアパレルを粉砕するほどのパワーを秘めている。
私は同著で、「機能価値」と「サービス価値」は、価格と相関性が高く、常に競合と価格比較されると論じた。一方、日本のアパレルが苦手で欧米ブランドが得意とする「イメージ価値」については、価格との相関性はなく、良いデザインであれば価格は青天井になるという分析を、さまざまな類似事例を出して行った。
私は、日本のファッション衣料がやがてユニクロに一蹴される時代がくることを予期していたので、同著で「イメージ価値」の生み出し方、および、競争で戦うための戦略を事細かく書いた。だが、同書は一部の経営者には読まれたが、その後絶版になり再販の予定はない。私は、仮想敵国を明確に「ユニクロ」とし、『生き残るアパレル、死ぬアパレル』を本年上梓したのだが、私の心の叫びがどこまでアパレル業界に届いているかは不明である。
念のためにいうと、私はファーストリテイリングが嫌いなわけではもちろんなく、むしろ敬意を表している。ただ、「ユニクロかそれ以外」という構図になり、世界一へのカウントダウンが始まっている同社に比べ、ろくにキャッシュフロー、いや、「資金繰り」さえ読めず、破綻の道を歩んでいる「感覚経営のアパレル企業」に競争力を与え、産業崩壊を止め健全な競争を取り戻すために、活動を行っている。
私は、30年この業界を見てきた。まず、天然紡績が日本から消え、タイムベース理論、いわゆるQR(クイック・レスポンス)で復活したかと思われたアセンブリ工場(縫製、編み立て工場)が、既述のZARAの MD戦略によって蟻地獄に陥り国内生産比率が総生産の3%以下まで下がり、まさに、消滅間際になっている現実。そして、最後のアパレル、リテーラーまでもが新型コロナウイルスで総赤字となっている今、最後の戦いを演じている。
過去、デフォルトに陥ったイタリアのファッション産業は、東欧州の安い人件費と戦うため、フランスのOEM国家という屈辱的立ち位置から、産官一体となりフィレンツェに世界のトップデザイナーを集めた「ファクトリーブランド」戦略を実行することで生き延びた。また、アメリカは、通称DAMAと呼ばれる産官学の三位一体で、タイムベース理論を生み出し、時間がキャッシュを創出するというTOC(制約理論)でQR、SCMを生み出し中国と戦った。さらに、最近の事例でいえば、ドイツが完全無人倉庫を作り、受注生産(トヨタJIT生産方式)をアパレル・雑貨に導入し、インダストリ4.0というデジタル技術で戦っている。
こうした世界各国の動きにたいして、日本が過去30年で行ってきたことは、商社・アパレルによる「南下政策」であり、果てしないコスト競争だった。そして、多くの工場は死滅に追いやられたが、戦略なきコスト競争の先には崩壊しか待っていないことをしるべきだろう。
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プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)