「新しい生活様式」が食品小売を進化させる3つの理由
「新しい生活様式」がスタンダードになる
注目すべきは、こうした新しい生活様式が、今回のコロナショックが仮に終息した後も新たなスタンダードとして定着する可能性があるという点である。というのも、新しい生活様式で示された事例の一部は、コロナ以前から拡大が見込まれていたことが多いからだ。
たとえばリモートワーク。「働き方改革」の一環として注目され、ベンチャー企業やIT企業の一部では導入が進んでいた。食品のデリバリーも「Uber Eats」や「出前館」などによる宅配インフラの拡充もあり、すでに市場は拡大基調にあった。政府や関係省庁も躍起になっていたキャッシュレス化の流れについては言わずもがなだろう。昨年10月から今年6月末まで行われたキャッシュレス・ポイント還元事業の後押しもあり、キャッシュレス決済の利用は幅広い年齢層で浸透しつつあった。
マーケティング会社デコムの大松孝弘社長は「コロナ禍によってまったく新しいニーズや消費欲求が生まれたということはない。以前から“くすぶっていた”ものに、コロナが火をつけたということだ」と指摘する。そのため、多くの人々は大きな違和感や壁にぶち当たることなく、「新しい生活様式」を受け入れ始めているのだ。
レジレス化の動きが加速
このように人々の生活様式が変化していくなか、彼らの日常生活を支える食品小売業はどう変わっていくべきなのだろうか。
まず挙げられるのが、キャッシュレス化、その延長線上にあるレジレス化の流れに乗り遅れないことだ。前述のようにキャッシュレス化の取り組みは業界全体で進んでいるが、現在は決済プロセスからレジそのものを取り払う「レジレス化」を志向する企業も増えてきている。
たとえばトライアルホールディングス(福岡県/亀田晃一社長)はセルフレジ機能付きの買物カートを一部店舗で導入。同カートは、7月にリテールパートナーズ(山口県/田中康男社長)傘下の食品スーパー(SM)企業丸久(同)が福岡県内の店舗で本格導入に向けた実証実験を開始するなど、競合の壁を超えた動きも出てきている。このほか、カスミ(茨城県/山本慎一郎社長)もレジレス・完全無人のウォークスルー型店舗を開発している。
コロナ禍で生まれた消費者の「非接触ニーズ」は今後も根強く残ると見られる。これまでは欧米や中国にやや後れをとっていたが、日本国内でもレジレス店舗の開発は加速度的に進んでいくだろう。数年後には、「レジレスか否か」が、顧客が店を選ぶ条件となる可能性も否定できない。
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