崩壊へ進むアパレル業界を救う最後の戦略提言、合従連衡によるマルチプラットフォーム戦略とは
百貨店のオムニチャネルが誤った戦略である理由
例えば、百貨店を例にしよう。判で押したように「オムニチャネル戦略」を掲げている。とだが、消費者がネットで買う理由は「品揃え」と「価格の安さ」、の2つしかない。その2つを満たすため、アマゾン(Amazon.com)は、「物流」に天文学的な資金を投じ、消費者が「好きなとき」に「好きな商品」を「できるだけ早く」購入できる仕組みを作り上げた。今では、ホームページのトップページをGoogleからAmazonに変えている人も増えているほどだ。
しかし、百貨店というのは、文字通り「百の商品」を「定価」で売るビジネスである。品揃えは、セグメントは多いが、それぞれに広がりがなく、値引もしない。それなのに、わざわざECで買うお客がいるだろうか。つまり、いま百貨店が掲げているオムニチャネル戦略は、消費者起点でみたとき魅力のない、誤った戦略であるというのが私の分析だ。百貨店の人は、「うちのバイヤーが世界から選んだうちにしかない商品がある」という。しかし、これも、消費者起点でみれば、それほど売れる商品なら、消費者は、その商品をGoogleサーチし、百貨店などを通さずに、Amazonや楽天経由で安価に買うだろう。つまり、百貨店が頑張れば頑張るほど、テナントのビジネスが増える、バーチャルショールームと化しているのである。
百貨店のEC化率が低いのは、こうしたことと無関係ではない。だから、私は6年前から百貨店のオムニチャネルは、実店舗の来店客を満足させることに使え、リモートバーチェス(自宅から百貨店のオンラインで購入する)は無駄だ、と何度も指摘している。実際、今日5月30日、伊勢丹新宿店が待望の再オープンを果たしたが、日経新聞によれば、100人が列をなし入場制限を行ったという。誰が、アフターコロナの世界はECが増えるなどといったのか分からないが、そもそも百貨店の持つ価値というのは、リモートで商品を買うものではない。百貨店という館のなかでお買い物体験をすることなのだ。そんなことは消費者調査を行えばすぐに分かる。
このように、業態ごと、企業の強みや置かれた状況に合わせた「勝てる戦略」を持てということなのである。続きは明日、いよいよマルチプラットフォーム戦略の全貌を公開したい。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)