崩壊へ進むアパレル業界を救う「最後の戦略」提言 合従連衡による「マルチプラットフォーム戦略」とは

河合 拓
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生き残るための最後の道、マルチプラットフォーム戦略

metamorworks / iStock
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 実は、この論考を書くに至ったのには理由がある。それは、前々回に書いた「『マルチプラットフォーム戦略』とは何か」という問い合わせが多かったからだ。

 もはや、アパレル企業は、仕入れた2020年の春夏物をたたき売ることしかできていないのが実態だ。その結果、赤字と借り入れは増大し、企業価値はどんどん落ちている。したがって、経済が再開されれば、外資を含めたM&Aの嵐が吹き荒れ、金融主導でアパレル業界は様変わりすることになることは既に説明したとおりだ。それが資本主義のルールである。

 このとき、アパレル業界を奈落の底に突き落とすのは、ロジックと数字が極めて弱いということだ。仲間内でやっていたときは、業績の良し悪しを「天気」と「トレンド」のせいにしていればよかった。だから、企業買収の世界では「アパレル業界だけは御免被る」という意見が圧倒的となり適正な評価がなされていなかった。したがってリスクマネーは、アパレル企業が死に体寸前、つまりEV (Enterprise Value 企業価値)がほとんどゼロ近くになったときなだれ込むことになることになる。

 そして、私が提唱するアパレル業界救済の戦略、すなわちマルチプラットフォーム戦略は、こうした動きに乗るものだ。

 こうした状況を踏まえれば、アパレル業界は一部の競争力をもった企業以外は、金融主導、あるいは株主主導で解体と統合を繰り返すことになる。そして、雨後の竹の子のように乱立しているアパレル企業の数は大きく減ることになるだろう。暢気に春夏の仕入れはどうしようなどと考えている暇など無いのだ。

 私はこうした絶望的な状況の中においても、まだアパレル業界をなんとかしたいと思っている。私は決して逃げたりしないからだ。

 おそらく、アパレル業界に残された「最後の戦略」といえるのが、「マルチプラットフォーム戦略」である。その本質的意味合いは、襲いかかる買収攻撃に反撃するものでなく、むしろ、その買収攻撃に乗り逆利用しようという発想である。

実はハゲタカではない ファンドの本当の目的

 そのリスクマネーの“出し手”は、ファンドだけでなく、家電や家具販売などの異業種、そして、当然外資系企業も含まれる。彼らによって、アパレル各社の感覚経営は刷新され、大改革とロールアップ(複数の企業を統合する)が起きる。「ファンドは怖い。それ以外は安全だ」などと考えている無邪気なアパレルもいるようだが、もっと勉強した方が良い。資本主義の世界では「お金に色はない」。金の出本がどこであっても資本主義が正しく機能していれば結果は同じである。自らの経営について、正しく素人でも分かるように噛み砕いて、説明責任を果たせる論理力、そして定量的に語れる科学性が必要なのだ。それが、できなければ首をすげ替えられるだけだ。金を出す人間に悪者と善人がいると考えるのは「テレビの見過ぎ」である。もはや、この動きはもはや止められないだろう。商社の一部も、こうした動きに乗ろうという具合に戦略の方向転換を始めだした。

 そして、私が提唱するアパレル業界救済の戦略、すなわちマルチプラットフォーム戦略は、こうした動きに乗るものだ。

 実は、「ハゲタカ」「骨までしゃぶる」「乗っ取り」など、メディアによって悪い印象操作をされているファンドや商社は、単純に企業価値を上げたいと思っているだけだ。「そんなわけはない」と思う人のために、わかりやすく解説したい。

 企業には、お金が二種類あり、一つは「運転資本」、もう一つが「投資のためのお金」だ。リスクマネーは集めたお金を運用し増やすのが目的だ。だからファンドは、原則的にこれらのお金を赤字補填や「赤字会社の運転資本」には使わない。皆さんも、自分が買った投資信託が、ずっと垂れ流される赤字会社の赤字補填に使われているとしたらどうか。投資したお金の価値は果てしなく目減し続ける。このように説明すれば、皆さんすぐにファンドの本質を理解していただけるだろう

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