三越伊勢丹と高島屋がEC強化でめざす「カスタマイゼーション」の未来図
「デジタルでワンツーワンの関係築く」
このように、三越伊勢丹ホールディングスは、デジタル化とリアル店舗を同時に強化することを成長戦略に掲げる算段だ。むしろ杉江社長は、デジタル化投資については成長戦略ではなく、「生き残り戦略だ」と強調する。
お客様のニーズが変化している中で、デジタル化は成長事業というよりも、生き残り戦略。そこにいかないと淘汰される、未来がない。これはマスト。逆にいうと、われわれには大きなチャンスだと思っている。今までは、店にバイヤーが 世界から買い付けてきた良いモノを置いても、どのように素晴らしいモノなのか をお客さんに伝える手段がなかった。例えば、美術画廊で取り扱う美術品はほとんどが同じ商品がほかには存在しない「一点もの」で、広告チラシなどに掲載することができず、多くのお客さんに紹介できなかった。今では、画廊からこの美術品がどのような商品なのかをデジタル配信して、多くの方に情報を伝えること ができる。お客さんもSNSなどで情報を拡散してくれる。
もうひとつは、今までは外商部がお客さんとワンツーワンの関係を築いてきた。ただ、この仕組みだと限界がある。外商の担当者が持てるお客さんの数は、限られる。そのため、ワンツーワンで対応できる人数は、外商部の人数と比例してしまう。たくさんのお客さんと関係を持つためには、外商部の要員を増やさないと いけない。そうすると、コストに見合わなくなる。ところが、これから展開していくデジタル化で、お客さんにアプリを使っていただくことで、そのアプリを通じてお客さんとつながりを持つことができる。デジタルの力を借りて、かなりの人数のお客さんとワンツーワンのような関係を構築していけるようになる。
髙島屋もまた、最近ではEC事業にネット専門バイヤー6人を配置し、独自商品の開発を強化している。米子タカシマヤの「大山ハム」など、国内17店舗で扱っているご当地商品も訴求する。おせち料理など、自宅用の需要を狙った商品も拡充している。消費者の購買行動が以前とは様変わりしている中で、百貨店はEC対応に遅れていることが指摘されてきた。
ただ、限られたリソースの中で、商品管理の精度を徐々に上げ、 若年層などの新しい顧客層にアプローチをする、あるいは得意分野に絞った商品展開に注力するといった着実な取り組みも出始めている。百貨店ならではの独自性を打ち出せれば、 EC分野で失地回復することは不可能ではないかもしれない。
マス・マーケティングから「カスタマイゼーション」へ
売り場でのおもてなしと、ネット機能やスマホアプリなどのデジタル技術を融合して展開することで、一人ひとりの顧客のニーズを聞きながら、要望に応えていく。この髙島屋や三越伊勢丹ホールディングスの新たな取り組みは、顧客一人ひとりの状況や需要に寄り添う「カスタマイゼーション」システムの確立に向けた動き、と捉えることができる。
デジタル技術が隆盛を誇る昨今、販売の世界は、従来の大量供給・大量消費を前提としたマス・マーケティングの考えから、顧客の要望に応じて仕様変更を行うカスタマイゼーションを重視する姿勢に変化しつつある。 このカスタマイゼーションを得意とするのが、ECの巨人、米アマゾンである。顧客の購買履歴や閲覧履歴に基づいて商品提案する手法などを駆使し、業容を拡大してきた。
配送の迅速な手配や、映画見放題や音楽聞き放題などのさまざまなサービスを提供することで、優良顧客を囲い込んできた。そして、デジタル技術をフル活用し、書籍、家電、玩具などの分野で大手チェーンや企業を駆逐してきた。
もはや日本の小売企業全般に、アマゾンの脅威は押し寄せている。「長年構築してきた顧客基盤がある」「高級な良い商品を扱っている」、だから「百貨店は大丈夫だ」と自らを安心させるような論理を使って、アマゾンエフェクトの波から目をそらしてきた百貨店業界も、無策では到底太刀打ちできないだろう。
そういった意味で、従来の得意分野であった「モノを売る」「流行をつくりだす」「サー ビスを提供する」、こういった機能をデジタル化によって融合する新たな取り組みは、百 貨店が生き残るために必須となるのかもしれない。