4月1日。イズミ(広島県/山西泰明社長)の創業者である山西義政さんが逝去された。享年97歳。徒手空拳の中から一代で同社を立ち上げた立志伝中の人物の人生は、激烈そのものだった。
闇市での干し柿売りから、年商7321億円の大企業へ
大正11年(1922年)に広島県大竹市で生まれた山西さんは、昭和18年(1943年)に入隊。当時、世界最大と称された「伊400型」潜水艦に機関兵として乗艦していた。予定していた決死の作戦が台風により遅れたため、昭和20年8月15日を迎え、辛くも命を拾い帰還した。
しかし生き延びて戻られたとはいえ、原爆を浴びた広島市内は辺り一面が焼け野原。食うためには何かをせねばと、1946年、戸板に干し柿を並べ、闇で売り、本格的な商売の第一歩を踏み出した。伊400型に同乗していた戦友が農家で干し柿をつくっていることを思い出し、分けてもらったものだった。
そこから約74年――。イズミは営業収益7321憶円、営業利益353億円の大企業へと成長した。
その山西さんが92歳の時に著した単行本『混迷の時代こそチャンスだ 道なき時代に、道をつくる』に再び目を通してみた。
同書は、日々の商いの中で試され、練り上げられていった実践哲学書だ。
「人を動かすには、シンプルで分かりやすい言葉で伝えること」を信条とする山西さんは、同書内で実に多くの経営や人生に関わり役に立つ「言葉」を記している。
「どれもこれも平易で短い言葉ばかり。まず分かりやすくなければいけません。子どもにも分かるように心がけてきた。次は覚えやすさ。短くて、しかも語呂がいい」(山西さん)。
同書は、「変える」(1章)、「挑む」(2章)、「迅く」(3章)、「尽くす」(4章)、「学ぶ」(5章)の5章から構成される。
競争こそ最大の活性化、真似も超えれば革新・・・数々の金言
百戦錬磨の名経営者のみが知る領域から、誰にでもわかりやすく、と紡がれた数々の金言を次々と繰り出す。
いくつかを紹介していくと…
・安定は固定。不安定はチャンス。
・変化はお客様から学ぶ。
・感激しなくなったら、燃えなくなったら年寄りだ。
・変化は、自ら創り出せ。
・まず自分が変わること。自分が変われば周囲が変わる。
・(時代を)先取りし、時代を変えたいなら、一発ホームランを狙うのではなく、毎日、何かを変える努力を「続けて」いくことです。
・きちんと「悔しがる」こと。悔しがり続けること。それこそが、次の成功への力です。
・企業も脱皮しないと落ちてゆく。
・作品には、そのとき、その人の精神、人格が表れるんです。
・当たり前のことを当たり前にやり続ける。
・わたしはメロンで、それ(売場守備力)を判断しています。
・「変わらないことをやり続ける」という革新もある
・「念ずることは実現する。
・即決の瞬発力は日々の備えから。
・やらぬと失敗なし。やらなかったら大きな罪。
・失敗を恐れるな、しかし二度と繰り返すな。
・「予算、即決算。」上司に喜ばれるけれど実現不可能なものはダメ。逆に悠々と達成できそうな目標もダメです。自分の実力、社の実力、周囲の状況。全部を考え抜き、「これなら勝負できる」と自分を奮い立たせてくれるギリギリのところを目標に定めるのです。
・無作為の罪
・過去と他人は変えられないが、未来と自分は変えられる。
・仕事人にとっての一番の不幸は、忙しすぎることよりも仕事が減ること
・スピードとは品質である。
・文句は後から、やることを先に。
・現在の答えは3~5年前に打った手に他ならない
・大切なのは「誰が正しい」ではなく、「何が正しい」か。
・競争こそ最大の活性化。
・真似も超えれば革新
・自分で自分を育てよ、他人は育ててくれない。
・メモを持ち歩け。いい言葉やアイデアとの出会いは一瞬だ
・「書く」「振り返る」。このふたつを徹底することで気づきはどんどん増えますし、一つひとつが自分の成長へとつながっていきます。
・大人になると教科書を開くような学び方はなくなります。自分で教科書を創っていくのです。
・難しいことは分解すれば簡単。逆に簡単なことを難しくするな。
・検討します、忙しい、聞いてません は禁句
・後ろ向きの発言は禁句にしよう
・我々は常にやれない理由を述べるのではなく、やれる方法を述べよう
・人にはそれぞれ得手がある。得手な仕事をやろう
・部下に成功させる。そのために教えてやるのが上司の責任
・育てるのは部下ではなく、まず自分だと心得ましょう。
・上司は部下からの相談には、90%即答せよ。物の判断は3つ。よしやれ・ちょっと待て・やるな。
さすが。いくつもの艱難辛苦を乗り切り、勝ち続けた人物の言葉には重みがある。
これらの言葉に通底しているのはイズミの社風である「愚直に 地道に 徹底的に」ということである。
ここに書き留めたのは、ほんの一部にすぎない。
続きを読みたい人はぜひ同書を手に入れて読んでみていただきたい。
ありがとうございました。合掌。