アパレルの離職率低下を防ぐためにやるべきこと、やってはいけないこととは
アパレル企業の初任給が話題となっている。ユニクロ(ファーストリテイリング)は言わずもがな、TOKYO BASE , パルグループなど入社1年目から月額30万円を超える給与を発表するアパレルが増えてきたのだ。しかし、前々回も指摘したように、入社時の給与水準が高いからといって、仮にその後給与があまり上がらなければ、待遇への満足度は年々下がっていくことになる。その結果、せっかく頑張って獲得した「金の卵」が、30代の働き盛り伸び盛りのときに離職してしまったら、元も子もない。ではどうすればよいか、考えていきたい。

終身雇用時代、手厚い住宅補助があった理由
私がかつて勤務していた総合商社イトマン(住金物産<現日鉄物産>に買収された)は、奈良県生駒市にリゾートホテルのような社宅を所有していた。ナイター付きのテニスコートまでつき、朝はテニスボーイズたちの壁打ちの音で目覚めたものだ。この社宅は毎月3 万円程度で借りられ、結婚したら、会社は10 万円程度の給付金を10年間にわたって支給してくれたので、好きなマンションを選び放題だった。
独身時代の10年間と、新婚時代の10年間の計20年間で自宅購入のための頭金を計画的に貯め、会社は給与の額面を低くする一方手厚い住宅手当で社員が自宅購入のための貯蓄を後押しした(社員が賃料相当額の50%以上を会社に払えば課税所得から除外される)。イトマンのみならず従業員に手厚い会社が行う、従業員に長く働いてもらうための(当時は終身雇用が一般的だった)当然の施策だった。
会社は当時、結婚まで面倒をみてくれた。大口得意先様のご令嬢を事務職という名で入社させ、「半径5メートルの論理」で結婚させる。「半径5メートルの論理」とは、会社での仕事ぶりや忙しさを理解し共感してくれる人同士が結婚すればうまくいくという考え方だ。
当時、商社のようにハードワークが課される会社では、夫の仕事のつらさを理解できない妻とのいざこざ、不仲、そして不倫が横行していた。から、そのつらさを理解できる人と一緒になることで、家庭円満を築き、仕事に集中できる環境を整えようとねらいがあったわけだ。もちろん、90年代ころの話である。
初任給30万円は確かに魅力的で、上記の借り上げ社宅制度を併用すれば、会社の思惑通り、頭金の貯蓄も十分にできるのだが、そんな人間は当時、商社にはいなかった。「宵越しの金は持たない」のが男の甲斐性というものだったので、貯金をしている人間は皆無に等しく、みな、BMW やベンツなどの車を買ってぶんぶん乗りこなしていた。
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