#11 コープさっぽろ救済を通じ「日本の生協の危機」を回避した日本生協連の賭け
死の淵へと突き進んだ90年代のコープさっぽろ
90年代というと、60~70年代に各地で生協を立ち上げた「創業者世代」がトップに君臨していた時代です。彼らは消費者運動のリーダーとして、家庭の主婦らを組織化した有能な「運動家」ではあったが、事業の現場を経験せずにいきなりトップとなったため、店舗運営などの実践的な知識や技術に欠ける人が多かった。80年代まではそれでも何とかなっていたのですが、バブル崩壊とともに一気に問題が露呈したというわけです。
そんな「生協の危機」を象徴する存在が、コープさっぽろでした。70年代初頭の経営悪化からの再生を担い、北大生協専務理事から登用された河村征治理事長(故人)は、やはりスーパーでの現場経験がない「いきなりトップ」型の経営者でした。
北海道への攻勢を強めるダイエーに対抗して総合スーパー(GMS)タイプの大型店を増やし、「組合員のため」のスポーツクラブや旅行業、観光施設といった多角経営を指揮。就任当時119億円(71年度)だった事業高を国内生協2位の1689億円(95年度)にまで引き上げました。
その一方で、バブル景気に乗って借金を重ねた結果、有利子負債は850億円規模に膨張。GMS展開に伴って重衣料や家電などに手を広げ、「本業」の食品の品揃えや品質管理がおろそかになるという致命的な失敗を犯してしまいます。バブル崩壊後は、借金の利払いや大型店の償却負担が重荷となって老朽店舗の改装も進まず、組合員の「生協離れ」が加速していきました。
それらにも増して問題だったのは、経営難の実態を隠そうとしたことです。93年度には赤字に転落していたのに、計上すべき経費を次年度に繰り延べ、資産を関連会社に売却するといった会計処理で黒字決算をつくっていた。組合員の信頼をつなぎとめるには出資配当を毎年出す必要があり、そのためには決算を赤字にはできない-という理屈で決算操作を常態化させていったのです。
経営責任を問われた河村氏は96年に退任しましたが、「赤字隠し」をやめたところ累積欠損が100億円規模に達することが判明。自力再建は不可能と悟ったコープさっぽろが支援を仰いだのが、生協の全国組織、日本生活協同組合連合会(日本生協連)でした。
他の生協が反発しても、日本生協連が救済に動いた事情
拡大路線によって自滅したコープさっぽろが救済を求めたことに対しては、他の生協の反発が強かった。にも関わらず、日本生協連は98年春、店舗改装資金の名目で100億円の緊急融資を決定します。そればかりか常勤トップの内舘晟(うちたて・あきら)専務理事(故人)が自らコープさっぽろに出向し、理事長として陣頭指揮をとる異例の全面支援態勢を敷いたのです。
この決断の背景には、直前に北海道拓殖銀行が経営破たんし、北海道経済が混乱を極めていたことがありました。「自己責任論」でコープさっぽろをつぶしてしまうと、当時85万人の組合員が拠出していた出資金・組合債合わせて326億円が失われ、従業員や取引先への影響も避けられません。拓銀に続いて国内2位の生協が北海道の社会的混乱を引き起こすことになれば、日本の生協の存在そのものが全否定されかねない-という危機感が超法規的な支援を決断させたのです。
コープさっぽろにとって幸いだったのは、トップに就いた内舘氏が、当時の生協では希有な「事業家」だったことでしょう。東北大生協専務理事だった70年に宮城県民生協(現みやぎ生協)を立ち上げた「創業者世代」の1人ですが、渥美俊一氏の名著「ビッグストアへの道」全10巻の内容をスタッフ全員に暗記させたという逸話があるほど、チェーンストア経営の基本に徹した経営者でした。
03年までの5年間、理事長を務めた内舘氏は①希望退職実施による人件費削減②利益率の高い宅配事業の強化③不採算店舗の閉鎖やリーシング④家電などの非食品分野からの撤退⑤食品特化型店舗への改装-などの再建策を実行。02年度には営業利益38億円と国内生協トップに立つまでに導きます。このうち⑤に挙げた「食品特化型店舗への改装」を担当したのが当時、若手幹部だった大見英明・現理事長でした。
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