#11 コープさっぽろ救済を通じ「日本の生協の危機」を回避した日本生協連の賭け
大見現理事長が主導した「おいしいお店」路線の成功
大見氏は、経営危機さなかの97年に新道店(札幌市東区)の改装を提案。食品のSKUを1.5倍に増やすとともに、中華料理などのカテゴリーごと調味料から生鮮素材までを1カ所にまとめる用途別陳列、総菜などで直営売場とテナントを競わせるダブルトラッキング方式を採用し、改装前に比べ来客数を30%、売上を40%伸ばした実績がありました。この「新道店モデル」は、内舘体制下で「おいしいお店」としてフォーマット化され、今日のコープさっぽろ店舗の基礎になっています。
前回紹介したように、大見氏はコープさっぽろで店舗での現場経験を積み重ね「事業マインド」を養ってきた新しい世代の生協経営者です。生協の枠を超えて交友関係を広げ、新しい知識をどん欲に取り入れるフットワークの軽さも持ち合わせており、その成果を生かした数々の事業改革によってコープさっぽろの競争力を高めてきました。
代表的な改革として挙げられるのが、取引先800社に働きかけて2000年に始めた「MD研究会」「MD協議会」です。これは取引先にPOSの販売データを全面開示した上で、商品展開や売場づくりの提案を求め、全店で実践する取り組みです。好結果が出れば、過去の実績とは無関係に取引額を増やすというインセンティブを設けたことで、取引先が競うように優れたアイデアを出し、売場は常に改善され、活気を保っています。
従来、スーパーのバイヤーが多種多様な商品を経験則や勘で仕入れていることに疑問を持っていた大見氏は「それぞれの商品を知り尽くした取引先に話を聞く方が合理的だ」と考え、それまでの商慣習を一変させてしまったのです。
大見氏は若手時代、中規模店の水産担当、本部のコメや酒のバイヤー、大型店の店長…などと毎年のように職場が変わり、「なんで自分だけこんなに頻繁に異動させられるのか」と不思議に思っていたと言います。これは当時理事長だった河村氏が、大見氏の将来性を見込んで、店舗事業の現場をひと通り経験させたというのが真相だったようです。
ワンマン経営者として知られた河村氏はプライドが高く、決して他人に弱みを見せない人でしたが、自分に現場経験が足りないことを誰よりも自覚し、大見氏に将来を託そうとしていたのかもしれません。
一方、日本生協連の最高幹部の立場にありながら、コープさっぽろの再建に自ら乗り出した内舘氏は当時の心境について「生協が21世紀に通用する事業であることを証明したかった」と生前に語っていました。北海道で3極体制の一角を占めるまでになったコープさっぽろの復活の陰には、日本の生協再生を賭けた綱渡りのドラマがありました。
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