日本のアパレルの非効率と非常識を 「なんとかする」のが商社の仕事
「なんとかする」商社の「なんともならない」課題
こうしたアパレル側の要求に対して商社側の対応にも大きな問題がある。まず、未だに紙と鉛筆絵仕事をしているのが商社業務なのだが、これを「デジタル化しましょう」と提案すると、特にユーザ部門から激しい反対に遭う。
とくに、商社ユーザー部門は声が大きく、バリューチェーン全体の業務改革に対して非協力的だ。彼らは、自らが行っている業務を前提に生産性を上げたいと考えている。例えば、「アパレルから来る手書き縫製仕様書を、デジタル技術を使って読み込めないか」自動翻訳技術をつかって日本語を中国語に変換できないか」といった要望を彼らは出してくる。そうではなく、アナログ業務の根元であるアパレルに電子縫製仕様書を強制的に使わせ、デジタル化された情報をもらい、商社業務全体を自動化すべきなのだが、そういう発想はでてこないのだ。
商社ユーザ部門は、自分の「今の業務」を前提に物事を考え、それ以外のことに関心を示さない。だが、そんなバリューチェーンから生まれる商品は、前述の通り、なんら競争力を持ち得ないのだから、実際に取引しているアパレル企業はどんどん弱体化し、回り回って彼らと取引する商社の売上も減少するわけだ。
今、商社にOEMを頼んでも、「うちは10億円以下の仕事はやらない方針だ」というところがほとんどだ。それなら、「なぜ10億円の商いをすれば、アパレル企業の価値向上が果たせるのか」ということを説明すべきだろう。私には、単に青い鳥を探しさまよっているだけにしかみえない。だから商社はこぞってユニクロや無印良品など、勝ち組企業のOEMに集中し、血みどろのレッドオーシャンのなかでコスト競争をすることになる。取引先には「レッドオーシャンから抜け出しましょう」などと言っておきながら、いざ自分のこととなると、こうした全体像が見えていないのだ。
次回は今回の話を踏まえて、ユニクロの競争力の源泉について解説したい。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)