”レジレス全盛”の今、店舗従業員のモチベーションを考える

平川義修(株式会社CA無人店舗 取締役 )
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小売業におけるテクノロジーがいくら進歩しても、店舗を持ちお客に商品を販売している限り、従業員は必要だ。レジレス店舗や無人店舗導入において「従業員から仕事を奪われるという反発があるのではないか」という懸念の声は少なくない。しかし、海外では、無人店舗である「Amazon Go」などにも常時従業員がいる。これからのDXされた店舗で求める従業員のスキルとはなにか。海外での事例を取り上げつつ、考察していきたい。

「標準化」への誤解がモチベーションを下げている?

 以前、とある小売企業の経営者から「チェーンストアの課題とは」と聞かれた。企業によって異なるとは思うが、課題のひとつとして「従業員の働くモチベーション」が挙げられるのではないだろうか。

 チェーンストアにおいては、オペレーションを標準化することで、誰が働いてもある一定の結果は出すことができる。ただ、最近ではこの「標準化」が「画一化」と誤解され、従業員の業務が自分の成果と感じられにくくなり、働くモチベーションの低下、生産性の低下、さらには離脱を招いてしまう。

 言うまでもなく小売業において従業員は欠かせない存在だ。従業員が活き活きと働いていると、自然とお客も増え、売上も上がっていく。私は、この好循環をつくることが日本の小売で大事なことだと考える。

 給料などの評価においても、なぜこの従業員の賃上げをするべきなのかを勤続年数や感覚的に評価するのではなく、定量的に売上貢献を可視化することで、納得感のある評価となり「〇〇をすれば評価される」「自分がやったことで売上が上がった」というモチベーションに繋げられるのではないだろうか。

アメリカにおけるレジレス店舗での働き方の一例

 ここでアメリカのレジレス店舗での接客の変化について触れたいと思う。アメリカにある大手小売チェーンの「サークルK」はおもに、ガソリンスタンドに併設しているコンビニエンスストアを運営している。2020年頃からサークルK社はアメリカの「Standard AI」というベンチャー企業とともに、レジレス形態の店舗フォーマットを模索してきており、2022年には複数のお店がレジレス化を実現している。

 「サークルK」のレジレス店舗では、スマホアプリをかざして入店をすれば商品を手に取って店を出るだけで決済が完了する。なので、従業員がレジ作業をする必要がなくなった。その代わり従業員を削減し、運営費を下げるわけではなく、従業員による接客を増やし顧客満足度や販促を充実させる工夫をしている。

レジレス店舗での従業員による密な接客。
レジレス店舗での従業員による密な接客。

 また、目視ではなかなか気づきにくい商品の欠品や陳列整理などを、AIがカメラ画像から発見して従業員に通知する。また、売上の貢献度を可視化することで従業員自らが率先し動くようになる。このような取り組みから、従業員がゲーム感覚でより良い売り場作りを実現していくようになるわけだ。

AIによる店舗オペレーショ指示出しと、売上との因果関係による貢献度の可視化(イメージ)
AIによる店舗オペレーションの指示と、売上との因果関係による貢献度の可視化(イメージ)

「レジレス」は、むしろ従業員の働きがいを高める

 レジ打ちなどの単純作業は、昨今のレジレス技術などを用いることで限りなく0にすることができる。この際に大事なポイントは、従業員のレジ打ちの作業をなくすのであって、お客への接客をなくすわけではない、ということだ。

 これは一例だが、従業員は売場に解き放たれるので、店頭でこれまで以上の深い接客対応をすることができる。それにより、お客とより深い関係性をもてるようになり、従業員の働きがいも高まる。これにより、固定客化が促され、顧客単価を上げていくことにもつながる。インターネットでものが買えるようになってきた世の中では、このような付加価値をつけることで差別化を図っていかなければいけないと考えられる。

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