PLM大失敗で巨額のサブスクフィーを払い続けるアパレルを救う唯一の方法
製品の開発・設計・製造といったライフサイクル全体の情報をITで一元管理し、収益を最大化していく手法であるProduct Lifecycle Management(PLM)。いまこのPLMを巡る混乱をどう収束させるかがアパレル業界で最大の関心事となっている。
そこで前回、前々回とPLMが止まってしまう状況と誤解について解説した。パッケージのフィット&ギャップを知らない自社生産部とベンダーが、本来の受益者である事業部やベンダーの集約メリットも考えずに、「使えないPLM」をアジャイル導入し、その通りに使われずに高額なサブスクフィーだけを3年間払い続けているのだ。そして現場は、従来通りの「紙」と「鉛筆」、「ファックス」でサプライチェーンのコミュニケーションをやり続けているという信じられないような事実をいくつも目の当たりにしてきた。今日は、こうした企業は、どこで躓いたのか、また、「やってしまった」アパレルはどのようにリカバリーすればよいのかを書きたい。
個別最適のPLM導入は
「田んぼのあぜ道をフェラーリで走る」のと同じ
アパレル企業は、サプライチェーン最適化と個別企業最適化の違いさえ理解できていない。
PLM導入に失敗した人と話をすると、視野が狭く感覚判断(定量的判断がない)でものごとを進める人が多い。PLMは、最終的に多段階を飛び回る商品の製造コストがそれぞれのバリューチェーンでコストを下げることが目的だ。しかし、多くの、そして、ほとんどの企業は、その目的をはき違えている。
CIF (海外から日本への輸送賃込みの価格)を下げるため、素材メーカ、付属メーカ、縫製工場と流通全般を司る商社、あるいは、直貿の場合はアパレル企業がデータ連携し、ものづくりの工程を経て付加価値をあげてゆき、日本へもっとも効率のよいコストで輸入される。これが、サプライチェーンの全体最適である。
これは、各社が個別に導入してきたシステムを統合するERPパッケージに似ており、入力業務は大変になるが、従来作成するのに極めて時間と労力がかかったマネジメントKPIや定量数字が即座に見えるようになる。また、サプライチェーン全体の中で、個別企業が適正な利益を取っているかどうかも確認することができる。サプライチェーン全体が、あたかもVSC (Virtual Single Company 仮想的単一企業)のように動くのだ。すでに事業者業界ではフォルクスワーゲンはじめ、日本ではトヨタなどが採用し、産業エコシステムをつくっている。
しかし、企業のサプライチェーンマネジメント(SCM)担当者は、自社の業務が楽になることだけを考えており、自社のSCMの範囲外については全く考慮に入れようともしない。そして驚くことに、彼らには「ROI」という概念がない。
「今時、紙と鉛筆でのコミュニケーションはないだろう」という、ただそれだけの理由で、産業エコシステムを数千の企業群とつくるPLMを導入する。紙と鉛筆がいやなら、レポーティングツールをいれれば良いし、鉛筆とファックスがいやならRPA (Robotic 業務を支援するロボット)を導入すれば良い。導入するシステムがそもそも間違っているのだ。
情報システム部は、とにかく業務改善する前にシステムを導入したがり、例えば「分析ツールはあの企業がつかっているから我々もいれましょう」と、そもそものMDの組み方もメチャクチャなまま単なる分析ツールを導入する。こうして、何も考えず、スキルも向上しないままシステムだけハイテクツールになってゆき、企業の販管費は膨れ上がり競争力は逆に落ちてゆく。いわば、田んぼのあぜ道をフェラーリで走るようなものなのだ。
そして、その結果、PLMはカスタマイズのオンパレードとなりエコシステムを形成する人達は「この程度の数量で付き合ってられるか」と離れてゆく。明らかに、PLMの使い方を間違っている。失敗の要因は大きく以下の3つだ
- 上流工程で信頼できる戦略コンサルタントを活用し業務の標準化を定義しながらパッケージをつくっていない。
- アパレル産業の潮流を学ばない「この道何十年」という、生産担当者に過去の成功体験を前提に「IT化」(今までのやり方を前提にする)をおこないDXをおこなっていない
- そもそも、PLMとは、数百、数千人という人間が一斉に使うシステムなのに、自社の遅れた仕組みを正すためという矮小化された目的で話をしROIを無視する
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