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ユニクロ「秋の値上げ」が、「サステナビリティ追求」に舵を切る序章である理由

ファーストリテイリング が一部「ユニクロ」商品を値上げすることが報道されています。これを単なる急激なインフレと円安対策による値上げとみて良いのでしょうか?筆者はそれだけには留まらないとみます。そこにはサステナビリティを追求する新たな「ユニクロ」の立ち位置と、GU(ジーユー)との鮮明な差別化を背景とする、ビジネスモデルの激変を想像することができます。どういうことか、説明していきたいと思います。

Peter Fleming/istock
Peter Fleming/istock

ユニクロにも値上げ観測

 本稿を執筆しているのは6月下旬。筆者は関東在住ですが、あっという間に梅雨が明けました。猛暑到来で、スイカとゴーヤが待ち遠しい気分です。

 これだけ急に熱暑が来ると流石に体にこたえます。雨不足も心配ですし、北極や南極の動物達の生存環境も心配です。近くのコンビニの店頭では、大雨などの自然災害対策というポップのもとにカンパンなどの非常食が陳列されていました。抜け目ないな、という印象です。

 猛暑と並んで今熱いと言えば、それは「物価」でしょう。最近気になったニュースに、ユニクロが一部秋冬ものの値上げを予定しているという報道がありました。

「いよいよ衣服も原料高と円安で値上げが避けられない、ユニクロならば消費者に受け入れられそうだ」というのが素直な第一印象です。しかし、果たしてグローバルカジュアルウエアでトップクラスのファーストリテイリングが、単純に”値上げしました”と宣言して終わりになるでしょうか。

 ひょっとすると、この値上げが同社の本源的な戦略転換のはじまりになるのではないか– 筆者はそのような予想と期待をしています。それは、ユニクロ事業の在り方、GU事業と合わせた事業ポートフォリオ全体の在り方、欧米戦略など広範な影響をもつものになるでしょう。

 今回はこのお話をさせていただきます。

値上げは「時間の問題」

 まずマクロ指標で衣料品の輸入価格と卸売価格のトレンドを外観しておきましょう。

 まず、輸入物価。日銀が本年6月10日に公表した輸入物価指数繊維品は円ベースで4月が前年同月比+11.4%増、5月は+12.7%増と値上がりしています。

 これに対して、総務省が6月24日に発表した消費者物価指数被服及び履物は4月が同+0.8%増、5月は+0.9%増にとどまっています。

 このギャップを素直に解釈すると、「仕入れ価格にはインフレが顕在化しているが、小売段階では以前からの在庫の存在によってまだインフレは顕在化していない。しかし在庫が入れ替わるうちに仕入れ価格の高騰を価格に転嫁する動きが顕在化しそうだ」となるでしょう。

 原料価格や人件費、輸送費、為替相場が現状のトレンドを続けるとすれば、ユニクロが、在庫が回転し重衣料が増える秋冬ものから値上げを始めるという見立ては至極順当だと考えます。

 

値上げの範囲と値上げ率は?品質は?GUは?

gettyimages

 しかし値上げのあり方についてはもう少し丁寧に見たいと思います。まずは、何品目が値上げになるのか、その幅はどの程度か。次に、値上げと合わせて、機能性・デザイン性を含めた総合的な品質をどうするのか。そして、GUは値上げをするのか、するとなればどのような値上げになるのか。

 筆者がユニクロの値上げの報に触れた際、まず頭に浮かんだのがGUです。GUは国内ユニクロ事業に比べて規模、収益性で劣るため、原価上昇の対策はユニクロ以上に必要であるはずだからです。

ファーストリテイリングが取り得る2つのシナリオ

 そこで、実際にファーストリテイリングの選択肢を整理してみましょう。ごく簡単まとめると、次の2択になると思います。

第1の選択肢

ユニクロは値上げを最低限にとどめ品質を下げる。GUも同様の動きをとる。この結果、”マスのユニクロ、より低価格志向のサブブランドとしてのGU”という従来のブランディングを維持する

第2の選択肢

ユニクロは相応の値上げを進めるとともに、品質を高めサステイナビリティの訴求も強める。GUはこれとは対照的に最低限の値上げにとどめる。この結果、”サステイナブル志向のユニクロ、低価格志向のGU”というブランディングの刷新(GUについては強化)を行い、従来ユニクロで担っていた低価格志向層の一部はGUが引き受け、2つのブランドを共存共栄させる

 こう書き並べて見ると、やはり第1の選択肢が無難に見えます。

 しかし、この第2の選択肢のほうが美しく、経営陣の脳裏をいまよぎらないはずはないのではないでしょうか。

 

サステナビリティを突き詰めていくと

リサイクル、リユースを推進しているユニクロ

  筆者の認識を述べさせていただくと、「かなり前」との感覚的な比較になりますが、昨今のユニクロは値段が手頃になったものの、品質も相応に(他社比ではなく自社過去比で)低下し、買い替え頻度が高まった気がします。つまり、購買頻度が上がったように思います。

 企業側から見れば、これは「顧客あたりの期間売上高」を維持する合理的戦略となります。

 ところが、単位期間あたりの販売量(物量)が増えるため、環境負荷が強まったのではないか、という懸念を抱いてしまいます(精緻な科学的データを確認できるのであればしたいと思います)。

 ファーストリテイリングは現在”サステナビリティ・ファースト”の戦略に移行していると思います。ここでいうサステナビリティは人権、労働環境、障害者雇用、難民支援から気候変動などの地球環境問題まで広範なテーマを包摂しているようです。

  ここで環境問題についてサステナビリティをよく考えてみたいと思います。

  まず求められることは、売れるものを売れる量しか作らない(過剰在庫を持たない)という、いわゆるディマンド・チェーン・マネジメントの話となり、数年来「有明プロジェクト」として磨き上げてきました。

 その次のチャレンジは、リサイクル、リユース。これも例えば、今夏の「JOINTHE POWER OF CLOTHING」キャンペーンで形を整えてきました。

 さらにその先にあるのは、個々の製品のライフサイクルを長期化することでしょう。高品質で、再利用にも適する素材を使い、環境に配慮したサプライチェーンを通じて適正な価格で(場合によっては相応の値上げをおこなって)消費者に製品を届け、長期間愛用してもらう、さらに次の買い替えの時にも間違いなくユニクロないしGUで買い物をしてもらうーー このような仕組みを構築することがファーストリテイリングにとっても消費者にとっても理想的なはずです。

「サステイナビリティのユニクロ、アフォーダビリティのGU」へ

  こうなれば、同社が長年苦労してきた欧米の攻略のための有力なフックにもなるはずですし、GUの立ち位置が明確になり、ユニクロとGUの関係が自社カニバリを心配する関係から共存共栄の関係に変わり、GUのグローバル化も進めやすくなる、そう考えます。

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 冒頭、梅雨なき夏の到来をうけて温暖化に対する懸念を述べましたが、これは年々多くの方が共有する体感になっているのではないでしょうか。環境問題に何かしら貢献したい、という願いは着実に広がっているように思います。

 そうした消費者の心理ニーズをユニクロブランドが受け止め、ユニクロ製品がその解になることが消費者に実感されるとき、ファーストリテイリングは新しい次元に進むと考えます。

 この秋の注目はユニクロの「価格」動向だけではなく、「品質」と「サステイナビリティに関するメッセージ」にあると思います。大いに注目したいと思います。

 

プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師