ユニクロ「秋の値上げ」が、「サステナビリティ追求」に舵を切る序章である理由
サステナビリティを突き詰めていくと

筆者の認識を述べさせていただくと、「かなり前」との感覚的な比較になりますが、昨今のユニクロは値段が手頃になったものの、品質も相応に(他社比ではなく自社過去比で)低下し、買い替え頻度が高まった気がします。つまり、購買頻度が上がったように思います。
企業側から見れば、これは「顧客あたりの期間売上高」を維持する合理的戦略となります。
ところが、単位期間あたりの販売量(物量)が増えるため、環境負荷が強まったのではないか、という懸念を抱いてしまいます(精緻な科学的データを確認できるのであればしたいと思います)。
ファーストリテイリングは現在”サステナビリティ・ファースト”の戦略に移行していると思います。ここでいうサステナビリティは人権、労働環境、障害者雇用、難民支援から気候変動などの地球環境問題まで広範なテーマを包摂しているようです。
ここで環境問題についてサステナビリティをよく考えてみたいと思います。
まず求められることは、売れるものを売れる量しか作らない(過剰在庫を持たない)という、いわゆるディマンド・チェーン・マネジメントの話となり、数年来「有明プロジェクト」として磨き上げてきました。
その次のチャレンジは、リサイクル、リユース。これも例えば、今夏の「JOIN:THE POWER OF CLOTHING」キャンペーンで形を整えてきました。
さらにその先にあるのは、個々の製品のライフサイクルを長期化することでしょう。高品質で、再利用にも適する素材を使い、環境に配慮したサプライチェーンを通じて適正な価格で(場合によっては相応の値上げをおこなって)消費者に製品を届け、長期間愛用してもらう、さらに次の買い替えの時にも間違いなくユニクロないしGUで買い物をしてもらうーー このような仕組みを構築することがファーストリテイリングにとっても消費者にとっても理想的なはずです。
「サステイナビリティのユニクロ、アフォーダビリティのGU」へ
こうなれば、同社が長年苦労してきた欧米の攻略のための有力なフックにもなるはずですし、GUの立ち位置が明確になり、ユニクロとGUの関係が自社カニバリを心配する関係から共存共栄の関係に変わり、GUのグローバル化も進めやすくなる、そう考えます。
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冒頭、梅雨なき夏の到来をうけて温暖化に対する懸念を述べましたが、これは年々多くの方が共有する体感になっているのではないでしょうか。環境問題に何かしら貢献したい、という願いは着実に広がっているように思います。
そうした消費者の心理ニーズをユニクロブランドが受け止め、
この秋の注目はユニクロの「価格」動向だけではなく、「品質」と「サステイナビリティに関するメッセージ」にあると思います。大いに注目したいと思います。
プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師
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